2019.7.11
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採用・育成

成績不振の従業員を引き上げる!Amazonの新たな従業員トレーニング・プログラム"Pivot"

(写真=ImageFlow/Shutterstock.com)
(写真=ImageFlow/Shutterstock.com)
Amazonが2017年に導入したトレーニング・プログラム「Pivot(ピボット)」は、成績の良くない従業員のためのパフォーマンス改善プログラムです。「キャリア・アンバサダー」と呼ばれる専門家による指導のもと、個々の従業員のパフォーマンス・レベルを引き上げることで、チーム全体のパフォーマンス・レベルを確保することを目標としています。

しかし、Amazon特有の「厳格さ」を組み入れたプログラムであることから、参加する従業員の意識次第で、成果がまったく違ったものになる要素を秘めています。

Amazonの組織文化と"Pivot"が生まれた背景

Amazonの創設者兼CEOのジェフ・ベゾス氏は、「5.6万人の社員ではなく世界1.6億人の顧客に重点を置く」と豪語するほど、徹底した「顧客最優先主義」を信念に掲げる実業家です。そのため同社の労働環境は、「過酷」「従業員は使い捨て」といった批難を受けることも少なくありません。

しかし、こうした厳格なアプローチは、「全ての従業員から最大限の能力を引きだす」というベゾス氏流の戦略でもあるのです。言い換えると、「最大限の能力を発揮できない従業員は、Amazonには必要のない人材」ということになります。

そこで、単に自社の成長に貢献できない従業員を切り捨てるのではなく、改善のチャンスを与えるパフォーマンス改善プログラムとして、「PIP(Performance Improvement Plans)」が導入されました。PIPは、3ヵ月という期限内に従業が自ら改善を示すことに焦点を置いたプログラムでしたが、目標を達成するためのサポートや指導は提供されていませんでした。

そのため、実際はパフォーマンスの改善を促すよりも、「解雇する従業員をふるいにかけるためのツール」としての要素が強いとされていました。

こうした批判を反映し、PIPに代わる新たなトレーニング・プログラムとして開発されたのが、「Pivot」です。

「Pivot」、3つの選択肢

「Pivot」は、コーチングやさまざまなサポートの効果が見られず、成績不振が慢性化している従業員のためのプログラムです。PIP同様、パフォーマンスの改善を目的としていますが、従業員は多様なサポートや指導を受けられる点が大きく異なります。

「Pivot」への参加を要請された従業員には、3つの選択肢が与えられます。

●1 自主的に退職し、退職金を受け取る

●2 マネージャーが設定した特定のパフォーマンス目標を2~3ヵ月以内に達成し、Amazonの従業員として価値があることを証明する

●3 「法廷形式」のビデオ会議を通し、ピボットプログラムに参加すべきかどうかについて議論を行う。審判役は世界各地のAmazonで同様の仕事をしている同僚3名が務め、弁護は従業員の上司が行う

3番目の選択肢では、従業員に直訴する権利が与えられているものの、70%が「敗訴」という結果に終わることから、実質的には「退職するか、プログラムに参加するか」という二択から選ぶことになります。

プログラムをサポートするキャリア・アンバサダーとは?

「Pivot」で重要な役割を果たすのは、キャリア・アンバサダーと呼ばれる指導員です。キャリア・アンバサダーは、積極的に従業員の声に耳を傾け、短期的なゴールだけではなく、パフォーマンス改善後のステップアップの可能性も考慮に入れ、適切なサポートと指導を従業員に提供します。

また、多様な従業員と積極的にコミュニケーションを図り、指導を担当する従業員だけではなく、マネージャーやHRビジネスパートナー(HRBP)とも信頼関係を築くスキルを身に付けています。

「Pivot」を介した指導経験に基づき、必要に応じてプログラムを改善し、従業員エクスペリエンスの向上や培った知識をHR部門と共有する役割も担っています。

「Pivot」をチャンスとして活かすかどうかは従業員次第

残念ながら、Amazonは独自の「Pivot」に関する詳しい情報を公表していないため、実際の効果については憶測の域にとどまります。

キャリア・アンバサダーによるサポートや指導が受けられるという点を含め、「Pivot」をイノベーティブなアプローチと高く評価する声もある一方、法廷形式による参加決定法の不公平性を指摘する声も上がっています。

「審問」に先立って双方が相手方の声明を読み上げますが、従業員はテレビ会議の音声を聞くことが許されておらず、審判員を誰が務めるかはあくまで会社側が決定するそうです。

しかし、「パフォーマンスを改善したい」と希望している従業員にとっては、「Pivot」が飛躍の可能性を秘めた絶好のチャンスとなることは疑う余地がありません。チャンスを活かすか、あるいは解雇の道を選ぶか--「あくまで本人の意識次第で未来が変わる」というアプローチは、ベゾス氏のビジネススタイルと重なります。

Googleの従業員参加型人材開発「ピープル・オペレーションズ」など、トップ企業のHR戦略を自社の人材強化手段として応用する企業も少なくありません。

しかしAmazonを含め、各社が採用している戦略は、既に構築された企業文化を基盤とするものです。自社の目標や企業文化、事業規模、組織構成など、さまざまな要素とバランスを図りながら、上手に参考にしたいものです。
 

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