2019.9.23
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採用・育成

組織の多様化はオンボーディングから始まっている?ロレアルが展開する「FIT」とは?

(写真=MDOGAN/Shutterstock.com)
(写真=MDOGAN/Shutterstock.com)
ダイバーシティ(多様性)を組織の成長戦略の一環として重視するロレアルでは、新入社員一人ひとりのスキルや経験、パーソナリティーに合わせてオーダーメイドされた、2年間の個別サポートプログラム「Follow-up and Integration Track(FIT)」を採用しています。

FITは、新入社員が学習、体験、コミュニケーションの機会を通して、組織へのエンゲージメントを強化し、自らイニシアティブを取れるよう設計されています。

才能を最大限に引きだす基盤作りにも役立つ「FIT」

特にスピードが重視される消費財産業に関わる企業にとって、タレントの維持と管理は極めて重要な課題です。世界58ヵ国・地域に5万人以上の従業員を擁する、世界最大の化粧品会社ロレアルは、2005年からFITを軸に、多様なタレントの育成・維持を行っています。

多様な人材が集まるということは、これらの人材をオンボーディングの段階から合理的にサポートするための、様々なプログラムが必要ということです。FITは、新入社員が組織に1日でも早く慣れるよう配慮すると同時に、それぞれ異なる才能を最大限に引き出すよう組み立てられています。

マネージャーやHRチーム、メンターなどによる万全のサポート体制が整っているものの、プロセスの主導権はあくまでプログラムの参加者本人に与えられている点が特徴です。「自ら学び、進歩する意欲を刺激する」というアプローチからは、早期リーダーシップ育成戦略への姿勢が感じられます。

FITにおける6つのステップ

FITは、以下の6段階で構成されています。

1. ウェルカム(歓迎)

新入社員がロレアルの理念や価値観、歴史について学び、組織における自分の新たな役割を理解できるよう、ポジティブで実践的な受け入れ環境を提供します。

2. フィールド(現場)と製品

店頭訪問や現場研修、技術トレーニング、シャドーイングなどを通じて、現場と自社の製品を様々な角度から体験できる機会を提供します。

3. トレーニングとラウンドテーブル(座談会)

トレーニングとラウンドテーブルは、ロレアルについて新たな発見をする、他の新入社員と出会う、知識と専門能力を習得する、マネージャーや同僚と意見やアイデアを交換する、そしてネットワークを作る機会です。

4. 個別ミ―ティング・プログラム

最初の数週間は、個別プログラムに従ってトレーニングを行います。このプログラムでは、キーコントラクト(担当者)と顔を合わせ、ビジネスや課題、目標についての理解を深めます。

5. OJT(実地研修)

OJTでは、マネージメントのサポートを受けながら、専門知識の開発や様々な状況を観察・体験する機会を提供します。

6. メンターとHRマネージャーによる個別指導

入社後の経験や研修プロセス、ネットワーク作りについて、メンター(指導者)が客観的なアドバイスを提供します。また、HRマネージャーは職場や仕事に慣れるまでの期間だけではなく、今後のキャリアに関してもサポートします。

エンゲージメントの強化には、「最初の2年間」が重要

潜在的な才能を秘めた人材を発掘したら、その才能を育て、維持する必要があります。「成功のカギは入社後の2年間、つまりFITの期間だ」とロレアルUKのHRチームマネージャー、リチャード・ハンフリー氏は述べています。

この期間にあらゆる角度からサポートを提供し、新入社員のエンゲージメントを徹底的に強化することで、「この企業で働きたい、キャリアアップしたい」というモチベーションが生まれます。モチベーションの高い人材は、自ら目標を設定し、達成に向けて努力を怠らない行動力を備えています。

同氏曰く、入社後2年間継続して勤務した従業員は離職率が低く、長期的なキャリアを目指す傾向が強いといいます。

2年間という、通常よりはるかに長いオンボーディング期間は、長期投資という観点から見ると、迅速で効果的な人材育成戦略であり、かつ将来のリーダー育成戦略でもあるのです。

FITを参考に取り入れる3つのポイント

FITには、産業や組織の規模を問わず、多くの企業が自社のオンボーディング・プログラムに取り入れられる「オンボーディングと未来のリーダーシップ育成のヒント」が詰まっています。

1. 個別オンボーディング・プログラムの実施

各新入社員に合わせたプログラムを準備するのは、非常に手間のかかる作業です。しかし、単一のプログラムで新入社員全員のオンボーディングを行っている企業は、満足いく成果を上げているでしょうか。

特に多様化を目指している企業にとっては、個々の従業員のスキルや才能、パーソナリティーを活かし、伸ばすことは非常に重要です。

2. アクショナブルな指導

万全のサポート体制で新入社員を受け入れると同時に、新入社員が「自主的に考え、学び、行動に移す」ことができる、アクショナブルなガイドラインが必要です。企業文化や業務内容を義務的に教えるのではなく、新入社員が興味と自信を持って積極的に参加できるサポートプログラムを提供しましょう。

3. 包括的な育成

「仕事に関することはマネージャーや先輩に質問できるが、新しい環境でのストレスや不安については誰に相談すればいいかわからない」という新入社員もいるでしょう。

精神的なサポートも行うメンターの存在は、新入社員のストレスや不安を和らげます。ロレアルのような包括的な人材育成は、ポジティブな成果をもたらすはずです。
 

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