さまざまな国籍、文化の従業員が在籍するグローバル企業では、いかにして客観的かつ納得感のある評価を行うかが問題になります。そこでは日本的な慣習に基づいた評価は通用しないからです。
ここではインテルが考案し、今ではGoogleやFacebook、メルカリなども導入しているOKRについて、しばしば混同してしまいがちなMBOやKPIとの違いを通じて解説します。
似ているけど違う?OKR・MBO・KPIの考え方
|
MBO |
OKR |
KPI |
レビュー頻度 |
1年ごと |
四半期ごと
もしくは毎月 |
毎月(毎週、毎日の場合も) |
目標達成度を
測定する際の基準 |
組織
によって変わる |
SMARTに基づく |
プロジェクト
によって変わる |
目標の共有範囲 |
狭い(上司と本人) |
広い(全社) |
狭い(部門ごと) |
最終目的 |
報酬の決定要素
にすること |
組織の生産性を
向上させること |
プロジェクトの
目標達成 |
期待される
達成水準 |
100% |
60~70% |
100% |
OKRは「Objective and Key Result(目標と主要な結果)」の略称で、MBOは「Management By Objectives(目標による管理)」の略称であり、KPIは「Key Performance Indicator(重要業績評価指標)」の略称です。これらは業績評価手法のバリエーションですが、この中でもOKRは現在最もトレンドとなっている手法の1つです。
OKRを理解する際のポイントは全部で5つ。以下ではこれらを1つずつ解説していきます。
● ポイント1:レビュー頻度の高さ
第一のポイントはレビュー頻度の高さです。ピーター・ドラッカーによって考案されたMBOが1年に1回しかレビューを行わないのに対しOKRのレビュー頻度は四半期もしくは毎月行うのが一般的になっています。これによりスピーディーな目標設定と測定ができるようになっているため、めまぐるしく変化するグローバル市場にも対応しやすくなっています。
● ポイント2:達成度の測定基準の具体性
第二に目標達成度を測定する際の基準の具体性です。MBOとKPIが組織やプロジェクトによって変動するのに対し、OKRではSMARTを基準にしています。SMARTとは以下の5つの単語の頭文字をとった目標設定の指標を指します。
Specific(具体的に) |
誰が読んでも理解できる、明確で具体的な目標にする。 |
Measurable(測定可能な) |
達成度合いが客観的に判断できるよう、数値で表せる目標にする。 |
Achievable(達成可能な) |
現実的な目標にする。 |
Related(経営目標に関連した) |
組織にとって意味のある目標にする。 |
Time-bound(期限がある) |
締め切りのある目標にする。 |
日本的な慣習の残る企業では、目標の達成基準があやふやになることも少なくありません。しかしOKRはもともとこうした基準を明確に定めているため、達成度の測定が曖昧になりにくくなっています。
● ポイント3:共有範囲の広さ
第三に目標の共有範囲が、KPIとMBOに比べて圧倒的に広い点です。これには最終的な目標の違いが影響しています。MBOの最終的な目標は報酬の決定にあるため、目標の共有範囲を広く設定してしまうと実質的に報酬の情報まで共有してしまうことになります。KPIは最終的な目標が各部門のプロジェクトの達成にあるため、部門外で共有する必要がありません。これらに対してOKRの最終的な目標は組織全体の生産性向上にあるため、全社で共有するのです。
これにはチーム内もしくはチーム間での相互連携を促し、個人が目標を自分の中だけで抱え込まないようにする効果や、個人が組織への貢献度を実感しやすくする効果も期待できます。
● ポイント4:目標の達成・未達成と報酬の増減が無関係
また共有範囲が全社に及ぶということは、目標の達成・未達成と報酬の増減を切り離して考えるということでもあります。これが第四のポイントになります。目標の達成度が報酬に影響する場合、目標を設定する個人はできるだけ達成しやすい目標を選ぶでしょう。しかしOKRでは両者は無関係なので、より大胆で野心的な目標を設定しやすくなります。
● ポイント5:期待される達成水準の低さ
こうした大胆で野心的な目標を設定しやすくするもうひとつの要素が、期待される達成水準の低さです。達成が大前提となっているMBOやKPIに対し、OKRが期待している達成水準は目標の60~70%です。これにより目標が「ストレッチ目標(実力より少し高い目標)」になりやすくなるため、OKRによる目標設定は個人の成長にもつながりやすいと考えられます。これがOKRを理解するための最後のポイントです。
グローバル時代の「公平さ」を作るためのOKR
さまざまな国籍、文化の従業員が在籍するグローバル企業では、日本的な主観性の強い人事評価は通用せず、従業員から納得してもらえません。確かに客観的で公平な業績評価制度を確立するのは至難の技です。実際、業績評価制度は、従業員が人事評価の主観性を「飲み込める」ようにするための仕組みだとする経営学者もいるほどです。
しかし一方でOKRを導入するGoogleの人事のトップであるラズロ・ボックは著書『ワーク・ルールズ!―君の生き方とリーダーシップを変える』の中で、適切な業績評価制度があれば従業員はのびのびと能力を発揮し伸ばせるという考えに基づいて、業績評価の公平さを追求していると書いています。業績評価の公平さを「キレイごと」の一言で済ませずに追求しているからこそ、Googleの人材が強いのかもしれません。
もしそうだとすれば、今後さらにグローバルに展開していく日本の企業でも、OKRによる公平さの追求を検討する価値は十分にあると言えるでしょう。
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