人材の公平な処遇や育成を目指す上で、適切な人事評価制度の構築は欠かせません。「公平に評価されていない」「自分のやったことが評価対象に含まれていない」などと感じると、従業員のモチベーションの低下や離職率の上昇などにつながる可能性があります。海外進出を考えている企業においては、国内だけでなく現地拠点のローカル人材を意識した人事評価制度の導入を検討する必要があるでしょう。
そこで今回は、海外事例を中心に最新の人事評価制度のトレンドを概観します。そのまま導入すれば成功できるわけではありませんが、グローバルレベルで何を「公平な人事評価」と考えているのか、その考え方を理解することには大きな意味があるはずです。
人事評価制度の目的と評価対象
人事評価制度の目的は、会社の人材を効果的にマネジメントすることです。具体的には「処遇の決定根拠の明確化」「人材育成」「従業員の士気向上」の3点が考えられます。
「処遇」とは、昇格や昇給、賞与、あるいは役職任用などを指します。従業員一人ひとりの業務実績や能力、行動を正しく客観的に把握し、他人と不公平がないように取り扱うことが求められます。評価が上がったときだけでなく、前回並みないし下がったときにも従業員本人に納得してもらえるような根拠を示す必要があります。人事評価制度は、そんなときの客観的かつ公正な指標となることを目的として存在します。
適切な人事評価制度によって従業員の現状の業績や能力を評価することができれば、その結果に基づいて本人の特性を踏まえた「人材育成」が可能となります。仮に求められるレベルに達していなければ、原因を分析して課題を設定するでしょう。求められるレベルに達したと評価されれば、さらなるレベルアップのための課題を設定することになります。このように、人事評価制度によって従業員の特性を診断し、その能力向上を支援することができるのです。
給与や待遇面のインセンティブおよび適切な業績・能力の把握により、「従業員の士気向上」を図る目的もあります。「努力が正当に評価された」と感じることができれば、評価に納得できて働く意欲も高まると考えられます。
以上のように、人事評価制度は適切な現状把握によって従業員をマネジメントし、組織のレベルアップにつなげる役割を持ちます。そのため、評価対象は本人の業績と努力であるべきで、なるべく評価者の主観や感情を排する形で行ったほうがよいのです。
従業員のポテンシャルを引き出す人事制度
欧米企業では、一般的に成果主義として仕事のアウトプットに応じた評価が行われるというイメージがあるかもしれません。しかし、こうしたイメージは必ずしも正確ではありません。厳格な成果主義の適用対象は主にホワイトカラーのマネージャー以上の層だけであり、現場社員には職務に応じた評価が行われるケースが多いです。決して成果主義が組織の隅々まで行き渡っているわけではありません。
成果だけではなく、本人のポテンシャルを重んじる企業も数多く存在します。たとえばアメリカを代表する企業の一つであるゼネラル・エレクトリック(GE)では、「9Blocks」と呼ばれる評価指標を用いていました。パフォーマンスを縦軸、ポテンシャルを横軸にとった象限を9つに分割し、社員をそのいずれかに位置づけることで評価するという考え方です。
GEでは、2014年頃からこうした評価(レイティング)を取りやめ、PD@GE(Performance Development at GE)という評価システムを開始しています。モバイルアプリ上で業務のプライオリティを設定するとともに、同僚や上司から随時フィードバックを受け取るというものです。リアルタイムな評価によって、主体的かつ建設的に行動を改善することが期待されています。
欧米企業は単に成果主義一辺倒ではありません。トレンドとしては、従業員をより多角的かつ継続的にモニタリングする仕組みへ移りつつあると言えるでしょう。
具体的な5つの人事評価制度
新しい人事評価制度の具体的な方法を5つご紹介します。
・コンピテンシー評価
コンピテンシーとは、仕事ができる人の行動特性のことです。社内で高い業績を上げている人の行動特性やノウハウなどを観察し、高い業績をもたらすコンピテンシーを抽出します。そして従業員の評価の際にコンピテンシーを設定し、行動の質を高めることを目指すのがコンピテンシー評価と言えます。
・目標管理制度
目標管理制度(Management by Objectives:MBO)とは、目標に対する達成度を評価基準とする人事評価制度のことです。世界的に著名な経営学者であるピーター・ドラッカーによって提唱されたとされています。評価者と従業員の間であらかじめ目標についての合意を結び、目標が達成されれば高評価、達成されなければ低評価とします。
成果主義を唱える企業で多く導入されているものの、景気後退期では予実や昨対比の達成は構造的に困難です。そのため、短期的な数値目標だけでなく行動評価(コンピテンシー)を組み入れた多面的な評価が必要と考えられます。
・多面評価(360度評価)
多面評価(360度評価)とは、上司からの評価だけではなく、同僚や部下、さらには取引先や顧客など、多様な関係者から人材を評価する方法です。評価の偏りや特定の関係者の主観を排除することで、公平な評価に近づくという考え方に基づいています。
・ノーレイティング
ノーレイティングとは、業績に基づいた評価づけ(レイティング)を廃止することです。先に挙げたGEの例も、ノーレイティングの一つと捉えることができます。業績評価がパフォーマンス向上につながっていないとの反省から、ノーレイティングに踏み切る企業が出てきています。
期末のレイティングを取りやめる代わりに、マネージャーがリアルタイムでフィードバックを繰り返す仕組みを取り入れる企業が多いです。GEでは、アプリを活用してマネージャーのみならず多面評価ができるようにしています。
・Check-In制度
世界的なソフトウェア企業であるアドビシステムズでは、Check-In(チェックイン)と呼ばれる独自の人事評価制度を2012年から導入しています。チェックインとは継続的な面談を指しており、独自のワークシートを基に従業員とマネージャーが自らプライオリティを定め、お互いにフィードバックを与え合い、継続的なキャリアアップを目指すやり方です。形式や頻度については、完全にマネージャーの裁量にゆだねられています。
成果主義だけではない多角的な人材評価が必要
現在の最新の人事評価制度は、大きな目標を定めてその達成度で人材を評価する成果主義的な方法から、もっとこまめにフィードバックを与える方向へとシフトしつつあります。GEのように、アプリを評価制度に活用する動きが進んでくる可能性も考えられます。
成果だけではない多角的な人事評価を実現することが、多くの企業における人事評価制度の目標となってくるかもしれません。
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