ダイバーシティ(多様性)の重要性が認識されつつありますが、これを実現するために特定の人材を選ぶだけでは、本来の目的を果たすことは難しいでしょう。
本当のダイバーシティを実現するためには、その意味や目的を理解し、健全で有益なダイバーシティ環境を整備すると同時に、自社の多様化に貢献できる人材の雇用が不可欠です。
ダイバーシティを目指す企業によくある失敗
組織におけるダイバーシティは、多様な人材を採用し、人種や性別、年齢、学歴、職歴、信仰、母国語などにとらわれない職場環境を築くことで、生産性や競争力の向上につなげるという発想に基づくものです。
しかし、ダイバーシティに対する誤った解釈や取り組みが、失敗を招くことも多々あります。ダイバーシティを意識するあまり、「逆に人材の差別化を引き起こす」「組織内部で摩擦が生じる」「人材マネージメントが複雑化する」など、かえってフラストレーションを生み出してしまっていることがあるのです。
多様化が失敗する要因は「バイアス」
ダイバーシティを実践している職場では、従業員一人ひとりの価値観やスキル、趣向、言語などが異なるため、必然的にバイアスが生じやすいです。ネガティブなバイアスは、人間関係の摩擦や偏見を生み出します。これが、ダイバーシティが失敗する最大の要因です。以下で、バイアスを生み出す要因を見てみましょう。
目的や利益が明確化されていない
ダイバーシティの最終目標は企業の成長を促すことであり、単に多様な人材を集めることではありません。ダイバーシティプログラムが思うように機能していない企業は、全従業員にダイバーシティの目的を正確に伝えていない可能性があります。
また、ダイバーシティの目的は組織によって異なることを、理解しておく必要があります。「どのような目的でダイバーシティを実践するのか」を明確にし、目的を達成するために「どのような人材が必要か」「どのような戦略やプログラム、トレーニングが必要か」などについて整理しなければなりません。
ダイバーシティを理解していない
ダイバーシティの意味を理解していない、あるいは勘違いした状態で多様化を目指すと、成果を得られないだけではなく、マイナスに働くおそれがあります。
特に日本の企業では、「ダイバーシティ=女性や外国人の雇用促進」というイメージが定着しているようですが、本来ビジネスにおけるダイバーシティとは、組織に新たな価値やアイデアをもたらす人材を雇用することを意味します。つまり、多様化の目的に貢献できる戦力ということです。
カルチャーフィットを優先する
人材を維持する目的でカルチャーフィット(組織に定着している企業文化への適合性)を優先すると、ダイバーシティの範囲が限定されてしまいます。
タレント戦略企業Ethosの共同創設者兼CEOアリダ・ミランダ・ヴォルフ氏は、「強硬な企業文化は、適合性ではなくアディション(追加)を重視している」と分析しています。「企業文化に新たな価値やポジティビティをもたらす人材」が求められているということです。
組織規模で取り組んでいない
「強力なブランド力を築く上で、従業員一人ひとりが重要な役割を果たす」という信念のもと、多くの企業が従業員エンゲージメントの強化に取り組んでいます。ダイバーシティについても、同じことが言えます。
HRマネージャーなど一部の従業員だけが認識している、あるいは取り組んでいるだけでは、ダイバーシティは実現しません。組織のリーダーが率先して浸透を促し、定期的にイベントを開催するなど、組織に属するすべての人間があらゆる形で多様化に参加できる環境を作りましょう。
選考プロセスでダイバーシティを成功させるベストプラクティス
ダイバーシティに貢献できる人材を雇用する上で、選考プロセスが重要なカギを握っています。バイアスを最小限に抑え、公正で客観的な分析・判断をするために、面接官に候補者の名前や性別、学歴を公開しない企業もあります。
全候補者がベストを尽くせる機会の提供
採用選考にあたっては、候補者の数が多ければ多いほど、ダイバーシティを意識した選考がやりやすくなります。ただし、選考プロセスでベストを尽くせる機会を、すべての候補者に提供する必要があります。
評価やアンケートでバイアスを軽減
例えば、候補者の能力、行動、状況判断、動機、価値、誠実さ、創造性などについて幅広く評価できる「心理評価」は、雇用主が求める人材とのマッチングだけではなく、バイアスの軽減にも役立ちます。
「行動スタイルアンケート」は、候補者が何に興味を惹かれるか、特定の状況下でどのような行動をとるかなど、候補者の行動パターンと特徴を理解する目的で利用されています。
ダイバーシティを実現するための環境作りは、選考プロセスから始まっています。ダイバーシティを戦略的に活かし、企業の競争力を高めていきましょう。
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