HRとテクノロジーを融合させた「HRテック」が加速する中、アルゴリズムを利用した人事評価が新たなトレンドになっています。
採用選考から配置、評価、リーダー育成まで、広範囲なHR業務の向上に役立つ可能性を持つアルゴリズムHR。その利用法と、今後の展望や課題について考察します。
問題に対する科学的な解決手段「アルゴリズム」
「アルゴリズム」という言葉を耳にする機会は増えたものの、「正確には何を意味するのか分からない」という人も少なくないでしょう。
アルゴリズムとは、コンピューターのプログラミングを行うための計算方法のことです。近年は、「問題を科学的に解決するための手段」として、AIや機械学など幅広い領域で様々なアルゴリズムが活用されています。
採用選考領域で活発化する「アルゴリズミックHR評価」
このアルゴリズムが、HR領域に革命をもたらそうとしています。
人間によるHR評価は、評価する側にバイアスが生じやすいことが難点の一つです。例えば、無意識のうちに候補者や従業員の学歴や特定の行動、パフォーマンスなどに焦点を当て、結果的に不公平な判断を下している、あるいは潜在的なタレントを見逃している可能性などがあります。
アルゴリズミックHR評価(algorithmic HR Assessment)は客観性を向上し、無意識のバイアスを軽減すると同時に、組織の戦力となる生産的な候補者あるいは従業員を、長期的な見解から選択するツールとして注目を浴びています。
現時点では、Googleを含む国際IT企業がトップタレントを効率的に発掘する手段として採用するなど、採用選考領域での活用が活発化しています。
優秀な従業員のデータ(履歴書、採用試験の結果など)を分析し、それに類似した候補者を選ぶなど、データサイエンスをベースに、既存の従業員のパフォーマンスと候補者から収集されたデータを関連付けるという利用法が一般的です。膨大な数の応募者の中から、自社に最も適した人材を効率的にふるいにかけることができるため、選考プロセスの大幅な時間短縮につながります。
こうした背景から、SNSのプロフィールや投稿内容からデータを収集し、求人内容にマッチする人材を特定すると人材発掘サービスも生まれています。
アルゴリズムは潜在性な能力や性質、成長の可能性を見抜く
アルゴリズムを利用したHR評価は、履歴書や採用試験の結果、過去の業績といった表面的な情報からは見えにくい、潜在性な能力や性質、成長の可能性を見抜く際に役立ちます。
スキルや知識、状況判断、人格、仕事への関心度、認知能力、問題解決能力など、職業適合性を評価できるアルゴリズムは、採用選考だけではなく人事配置の最適化や能力開発、リーダー育成にも寄与します。
多数の企業がアルゴリズムHR評価の「模索段階」
データに基づいた分析結果の精度は、全米経済研究所が2017年に発表した調査報告書をはじめ、複数の調査で立証されています。これらの調査では、人間のHR担当者と比較した場合、「ナンバー・クランチング(コンピューターなどによる複雑な計算)は、より精度の高い雇用判断を下す」という結果が出ています。
しかし、HRコンサルティング企業のSHLが2017年に3,135人のHR担当者を対象に実施した調査では、実際にアルゴリズム評価を採用している担当者は14%と、普及率はまだ低いことが明らかになっています。
実際に採用している、あるいは採用を検討している企業の多くが、アルゴリズム評価の目的や効果的な使い方を模索中であることが、普及のスピードが緩やかである要因と考えられています。
しかし、90%の担当者が「自動化(Automation)は、従業員の生産力アップに貢献する可能性がある」、77%が「自動化は仕事のやり方にポジティブな影響をもたらしている」と回答するなど、HR関連の業務やプロセスの向上に役立つテクノロジーとして期待を抱いていることがわかります。
普及拡大に向けた課題 AI採用ツールでバイアスがかかる場合も
一方で、アルゴリズム評価に対する問題点も指摘されています。
例えば、Amazonは人材採用プロセスの効率化を狙い、2014年からAI採用ツールを開発していましたが、性差別というバイアスがあることが表面化したため、プロジェクトを打ち切りました。
同社のツールは、特定の職務と場所に焦点を当てた500のモデルを作成し、過去の応募者の履歴書から収集した約5万の条件を認識させるというものでした。しかし、これらの情報の中に女性に関連する単語が見つかると、評価が下がることが判明したのです。AIが、「過去の応募者の多くが男性=男性を採用すべき」という誤った認識を持ってしまったのです。
バイアスを軽減するために採用されたアルゴリズムが、予期せぬバイアスを生み出してしまう。そんな皮肉な結果を招いたわけです。
また、「自動化がリストラを加速させる」「逆に選考すべき候補者の数が増えた」といった声も聞かれます。こうした課題を一つずつクリアすることで、アルゴリズムHRの未来が開拓されていくでしょう。
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