近年、企業で従業員の「ウェルビーイング(Wellbeing)」に対する意識が高まっています。しかし、ウェルビーイングの対象は、肉体的・精神的・社会的なものだけではありません。従業員の生活を支える「フィナンシャル・ウェルビーイング(経済的な幸福)」にも、注意を払うべきです。
「フィナンシャル・ウェルビーイングが職場の生産性向上に貢献する」という調査報告もあるように、フィナンシャル・ウェルビーイングが仕事のパフォーマンスやコミットメント、職場環境などに及ぼす影響は思いのほか大きいのです。
フィナンシャル・ウェルビーイングとは?
身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味するウェルビーイング(Wellbeing)。フィナンシャル・ウェルビーイングは、「快適な生活を送るために十分なお金を持っていること」「お金を健全に管理できること」で得られる安心感や幸福感、充実感という意味です。
お金の問題は、想像以上に人間関係や仕事、私生活に影響します。経済が潤っていると生活だけではなく精神的にも余裕が出てきますが、経済的な不安を抱えているとストレスを感じ、それがプライベートや仕事、人間関係にネガティブな影響を及ぼします。
職場においては、こうしたストレスが業績や成果に影響することも多いでしょう。生産性の向上を図る上で、従業員のフィナンシャル・ウェルビーイングは重要な要素と言えます。
仕事でストレスを感じている従業員の約4割は「お金が心配」
フィナンシャル・ウェルビーイングと生産性の関連性は、多くの調査で立証されています。
英国人事教育協会(CIPD)が2016年9月に実施した調査では、回答者1,871人(産業問わず)のうち、日常的に仕事でプレッシャーを感じている従業員の38%が「個人的な経済的プレッシャーが仕事のパフォーマンスに影響している」と回答しています。特に若い労働者(25~34歳)に多く、この回答の割合は3分の1にのぼります。
また、「体が疲れていて仕事に集中できない」ことの最大の原因は、経済的不安による睡眠不足であることも明らかになっています。
経済的な不安の理由は、必ずしも所得ではない
この調査結果で興味深いのは、経済的な不安は必ずしも所得に起因するものではないことです。「経済的なゆとりがあまりない」と思われる年収1.5万ドル以下の層で、「お金の心配が仕事のパフォーマンスに影響している」と回答したのは30%にとどまるのに対し、その3~4倍の所得を得ている層の20%が経済的不安をパフォーマンス低下の理由に挙げています。
つまり、フィナンシャル・ウェルビーイングを向上させるためには、単に所得を上げるだけではなく、ファイナンシャル・リテラシーを身につけ、お金の管理・運用能力を高めることが重要なのです。
従業員のフィナンシャル・ウェルビーイング向上を目指す取り組み
従業員のフィナンシャル・ウェルビーイング向上のために、組織はどのように取り組むべきなのでしょう。
1. 給与構造の見直し
全従業員に、給与が公平に支払われているでしょうか。離職理由が「給与に対する不満」であることは珍しくありません。
給料格差や給与体系の不透明さは、従業員の不満につながります。「同期で同じような仕事をしているのに〇〇さんのほうが給与が高い」「自分より仕事をしない〇〇さんのほうがボーナスが多い」といった不満は、従業員のモチベーションを下げてしまいます。
年功序列型賃金制度から成果主義へと、転換を試みる企業も増えています。公平性という観点で、自社の給与体系を見直す必要があるかもしれません。
2. パーソナルなキャリアアップ・サポート
キャリアアップは、昇給につながります。キャリアアップ・サポートを通じて、従業員が努力次第で確実にキャリアアップできる機会を提供しましょう。
サポートにおいては、それぞれの能力やスキルだけではなく、興味の対象やワークライフバランスに対する考え方も考慮すべきです。20代前半の独身社員と40代後半の既婚社員では、理想とするワークライフバランスや今後のキャリアに求めるものが違うはずです。
積極的に、パーソナルなサポートを提供する制度を整えましょう。
3. フィナンシャル・サポート
フィナンシャル・ウェルビーイングの基盤となるのは、やはり経済的安定です。お金の心配が常に頭から離れないようでは、仕事に集中できず生産性も低下します。
公平な給与や福利厚生制度、住宅ローンや医療費の補助制度など、充実したフィナンシャル・サポートを通じて、従業員とその家族が快適に暮らせる環境作りを応援しましょう。
4. ファイナンシャル・リテラシー向上
いくら寛大なフィナンシャル・サポートを提供しても、サポートを受ける側にお金を上手に管理する知識やスキルが欠けていては、元も子もありません。
簡単なアンケートなどで従業員のファイナンシャル・リテラシーを測定し、レベルに応じた教育を提供してはいかがでしょうか。
肉体的、精神的、そして経済的な充実感を得ることで、従業員は自らの能力を思う存分発揮し、結果的に「生産性の向上」という多大なる利益を組織にもたらすことでしょう。
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