2019.9.20
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人材マネジメント

日本企業にも必要?従業員にまつわるすべてを管理する「レイバー・リレーションズ・スペシャリスト」とは

(写真=metamorworks/Shutterstock.com)
(写真=metamorworks/Shutterstock.com)
エンプロイー・アンド・レイバー・リレーションズ(従業員と労使関係)は、HRマネジメントにおける重要課題の一つです。

欧米では、この特定分野を専門家である「レイバー・リレーションズ・スペシャリスト(Labor Relations Specialist)」に任せることで、より効率的で健全な労働力の強化と労働環境の向上を目指す企業が増えています。

英国が発祥の地、レイバー・リレーションズ

インダストリアル・リレーションズ(industrial relations)とも呼ばれるレイバー・リレーションズの概念は、20世紀半ば、当時産業革命の真っ只中にあった英国で、従業員と雇用主の間の複雑な関係を理解し、改善する手段として生まれました。

エンプロイー・リレーションズ(Employee Relations)が従業員と雇用主の関係の管理と強化に焦点を当てているのに対し、レイバー・リレーションズは組織と労働組合、そして労働力(従業員)の関係の管理と強化に焦点を当てています。

日本では「労使関係」として、前者を個別的労使関係、後者を集団的労使関係と分類することが多いようです。

レイバー・リレーションズの重要性

多くの組織は、エンプロイー・リレーションズとレイバー・リレーションズを一つのものとして捉え、対応しています。しかし、組織構造や雇用形態が多様化している近年では、両方の課題に個別で取り組むことで組織構造を強化し、労働力の安定を図ることができます。

レイバー・リレーションズがもたらすメリットは、健全な労務管理慣行のサポートや従業員の生産性と満足度の確保、紛争解決など、数多くあります。

欧米で増加するレイバー・リレーションズ・スペシャリストの雇用

欧米では複雑化する課題への対応策として、労働関係の専門家であるレイバー・リレーションズ・スペシャリストを雇用する企業が増えています。

訴訟やストライキの回避を求める企業や組織にとって、従業員と経営陣の間の紛争を早期に解決するための連絡役として、レイバー・リレーションズ・スペシャリストは不可欠な存在となりつつあるのです。

米国労働省の推計によると、2019年現在、団体交渉協定の交渉や従業員の不満の管理、組合代表との生産的なビジネス関係の開拓に取り組んでいるレイバー・リレーションズ・スペシャリストが、米国内に約8万人います。平均給与は年間6.8万ドル(約712万円)と、米国の専門職としてはやや低めです。

レイバー・リレーションズ・スペシャリストの任務

レイバー・リレーションズ・スペシャリストの具体的な職務内容は、以下のとおりです。広範囲にわたる労使関係や団体交渉の問題について、従業員や監督者、マネージャーなどにアドバイスや指導、指示を行う責任があるため、経済学や労働法に関する知識や高度な団体交渉スキルが要求されます。
  • 賃金、福利厚生、医療給付、年金、労働組合の慣行、その他の規定に関する、従業員の契約の管理
  • 従業員の不満、職場における摩擦の緩和
  • 労使関係プログラムの実施
  • 団体交渉プロセス中に管理のための情報を準備する
  • 交渉済みの契約の遵守監督

レイバー・リレーションズ・スペシャリストは日本企業にも必要か?

高齢化や少子化などにより、日本の労働市場は急速に変化しています。この現状を踏まえると、エンプロイー・リレーションズだけではなく、レイバー・リレーションズにもフォーカスすることは、長期的な恩恵をもたらすと考えられます。

全労生が2015年に発表した『望ましい労働市場と働き方報告書』では、日本で急増している高齢労働者(60歳以上)の役割に関し、企業と労組で温度差があることが明らかになっています。

この調査は、事務職、営業・販売職、技術職(研究・開発・設計)、技術職(現業)、管理職の5つのカテゴリーに分け、高齢者の働きぶりについて企業と労組に回答を求めたものです。

「高年齢者の力の発揮度合い」「技術や技能の継承」に関するフィードバックでは、「あまり発揮できていない・あまり継承できていない」「発揮できていない・継承できていない」と感じている割合が、企業よりも労組のほうが圧倒的に多かったのです。

高齢者が力を十分に発揮できていない要因を探ってみると、企業が「気力・体力面の問題」を主な要因と考えているのに対し、労組は「賃金・待遇に対する不満」を最大の要因として挙げています。

レイバー・リレーションズの観点からみると、高年齢者の労働はより複雑で深刻な問題であることがわかります。こうした温度差は、氷山の一角でしょう。

年齢層や職種、性別、人種を問わず、すべての労働者を取り巻くあらゆる労働問題を把握し、解決に導くために、日本においてもレイバー・リレーションズ・スペシャリストの役割が重要視される時代が、すぐそこまで来ているのかもしれません。
 

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