2010年代の初頭から、一部大企業の「英語公用語化」が進んでいきました。日本企業が世界を相手にビジネスを展開する上で、社内でも英語を使用するべきであるとの考えが少しずつ広まってきています。
そこで今回は、英語公用語化の実情とメリット・デメリットを説明し、英語公用語化を実現するにはどうすればよいのかを考えたいと思います。
英語公用語化とは?企業によって異なる定義
英語公用語化とは、文字通り日本語ではなく英語を社内の公用語とすることを指します。単なる「日本企業の海外進出」にとどまらず、真のグローバル企業を目指すために、そして世界中の優秀な人材を獲得するためにも英語を公用語にしたほうがよい、という経営判断が背景にあります。また社内の日本人に対して英語の学習を促す目的もあります。
日本企業における英語公用語化をいち早く発表して話題になったのが、楽天とファーストリテイリングです。楽天は2010年に社内の公用語を英語へ移行することを宣言し、その後2年間の準備期間を経て2012年には公用語化が実施されました。2015年には、全社目標としていたTOEICスコア平均800点をクリアしたことが発表されました。
ファーストリテイリングでも、楽天と同じ2010年に社内英語化を目指すことが発表され、実際に2012年から導入されています。入社時に英語が選考基準となることはないもののキャリアステップの際に必要とされるなど、英語を重視する風潮が感じ取れます。
ただし、ひとくちに「英語公用語化」と言っても内実は企業によって異なります。楽天のように日本人同士でも会議や資料に英語を使用することを義務づけた企業は少数派です。表向きは英語使用が必要でも、コミュニケーション効率のために日本人同士では日本語を使用している企業、単にTOEICの点数だけ求められる企業、一部社員に対し海外での語学研修を行うのみという企業が多くなっています。
英語公用語化のメリットとデメリット
社内の英語公用語化を進めるメリットは、海外の優秀な人材の獲得、社内のグローバル化、社員同士の情報共有の円滑化などが考えられます。
英語公用語化によって、日本語を話せない人材を獲得できます。日本語を話せない求職者から見ると、社内で日本語が使われているというのは働いていく上で高いハードルとなってしまいます。英語公用語化によって日本語というハードルがなくなり、世界中から人材を集めやすくなります。楽天も、「世界中から優秀な人材が集まり、一体感をもった競争力のある組織にしていく」と目標を掲げています。
また社内の風土がグローバル化していきます。日本人社員であっても、英語を使用することで「世界を相手にしている」という意識を持たせやすくなるでしょう。世界の最新情報を社員が素早く収集できるのも見逃せません。社員の国籍が多様化しても、全員が英語を使用できればコミュニケーションに支障を来すことはありません。
一方で、英語公用語化にはデメリットもあります。実際、楽天やファーストリテイリングが英語公用語化を発表したときには、マスメディアやSNSなどでさまざまな批判が投げかけられました。
たとえば、英語が公用語になることで、業務スキルのある人材より英語を使えるだけの人材のほうが重宝されるという批判です。英語を話せる社員の発言力が増し、英語が苦手だけれど優秀な社員の肩身が狭くなってしまう結果、そうした人材の退職率が上がってしまうかもしれません。
また英語の苦手な社員が多い中で強引に英語公用語化を推し進めようとすると、社内に軋轢を生む可能性があります。社員に対する英語教育を進める教育者やシステムなどの準備にもコストがかかり、一時的ではあっても社内が混乱するかもしれません。実際、楽天やファーストリテイリングも英語公用語化を実施するまでに、2年間もの準備期間を置きました。
英語公用語化を実現するには時間と投資が不可欠
このように、社内のグローバル化を目指す上で英語公用語化にはメリットがあるものの、その導入には時間と投資が必要不可欠です。社員の自己学習にゆだねるだけでは、英語公用語化を実現するのは困難になるでしょう。少なくとも十分な準備期間を設定し、社内で安心して英語を学習できるような体制づくりが求められます。
また、段階的に英語公用語化を実施することも考えられます。海外と接することの多い部署から開始する、あるいは「メールだけ→社内文書→会議」など、ステップを踏んで英語の使用率を上げていく方法もあるでしょう。
いずれにしろ、一朝一夕には英語公用語化を実現できません。社員の平均的な英語力を見極めた上で、どこまで英語公用語化が必要なのか自社ビジネスとの関連を踏まえて検討することが必要です。
社員に抵抗感を感じさせない施策が重要
日本企業が海外に進出しグローバル化を果たすためには、英語の存在を避けては通れません。海外の人材に日本語を教え込むより、日本人社員に英語を浸透させるほうが効率的なのは明らかです。社内の実情を踏まえ、なるべく抵抗感のないような形で英語力の向上を全社的に目指すのがベストでしょう。
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