グローバル企業における最新の人事評価制度のトレンドは、いわゆる「成果主義」一辺倒ではありません。むしろ成果主義のメリット・デメリットを踏まえて、より社員の育成と公正な評価につながるような制度へ進化を続けています。こうした制度は、海外進出を目指す日本企業にも導入できるのでしょうか。
今回は、最新のトレンドを「双方向性」「随時評価」というキーワードから説明した上で、日本企業が導入する際の課題についてお伝えします。
グローバル企業の人事評価制度の種類とトレンド
アメリカに本社を置くグローバル企業の人事評価制度というと、とにかく「成果主義」というイメージがあるのではないでしょうか。成果主義の考え方自体は19世紀末から存在しており、第二次大戦後の1950年ごろにかけて一般化していったと考えられています。
日本でも1950年代から導入を図った企業がなかったわけではありませんが、成果主義が一般化したのは1990年代から2000年代にかけてのことでした。バブル崩壊後の低迷を抜け出せない日本企業において、終身雇用と年功序列が業績低迷の要因であり、一方のアメリカでは成果主義によって企業の好業績が支えられているというストーリーが広まっていったのです。
このように「海外企業=成果主義」というイメージがある一方で、現在のグローバル企業の人事評価制度は必ずしも成果主義のイメージの枠にとどまりません。そのトレンドは「双方向性」「随時評価」という2つのキーワードで表現できます。
双方向性とは、上司と部下、同僚同士などの間でお互いに評価し合うことです。たとえば「多面評価(360度評価)」は、上司のみならず同僚や部下、取引先や顧客など多様な関係者が人材を評価するやり方です。上司だけが部下を評価するやり方だと主観が入り込みやすいため、さまざまな関係者の評価を取り入れることで、より公平な評価のあり方へ近づけようとしています。
また随時評価とは、特定の「評価する時期」を設けるのではなく、より高い頻度でフィードバックの機会を設けることです。たとえばアドビシステムズでは、上司と部下がワークシートに基づいてフィードバックを繰り返す「Check-In(チェックイン)」という評価方法を2012年から採用しています。頻繁にコミュニケーションを図ることで、明確な目標設定やキャリアアップにつなげる狙いがあります。
以上のように、最新の人事評価制度は必ずしも成果主義の枠にとどまるものではなく、そのスタイルは進化を続けています。2010年代に入り、人事評価制度においては上司と部下、同僚同士の日常的なコミュニケーションが重視される傾向にあります。
日本企業が導入する上での課題
成果主義の導入に際して、日本では大きなバッシングがマスメディアで行われました。その結果、日本では彼我の風土の違いを踏まえて「日本型成果主義」と呼ばれるスタイルが一般化します。その典型例としては、中間管理職までは年功序列に近い能力給、中間管理職以降は成果給というものです。
成果主義の導入のように、最新の人事評価制度を取り入れる上でも課題があります。たとえば多面的な評価を設けるにしても、上司と部下の序列が厳然と存在している限り部下は上司に対して中立的なフィードバックを送りにくいでしょう。こうした環境で表面だけ多面的評価を導入しても、形式上だけで終わってしまう可能性があります。
随時評価も、制度だけ取り入れるのでは成功しにくいでしょう。上司からすると、評価の頻度が増えるのは業務上の負担として感じられてしまいそうです。また部下としても、常にチェックにさらされているような環境ではストレスになるかもしれません。
最新トレンドを踏まえて人事評価制度をグローバル化する方法
ご紹介した多面評価やCheck-Inは、あくまで人事評価上の方法論でしかありません。血液型の異なる血液を輸血すると拒否反応を起こすように、アメリカ企業の方法論だけ真似ても社内で拒否反応が出るのは確実です。双方向評価や随時評価は、上司と部下の関係、組織の風土などの前提があってこそ成立する評価制度と言えそうです。
仮にグローバルの最新トレンドを踏まえた人事評価制度を実施するのであれば、「自社の人事評価制度は何のために存在するのか」というそもそも論に立ち返る必要があるでしょう。社員の育成を促し、組織内部を活性化させる人事評価制度を構築するには、他社の事例ではなく自社の経営理念や課題などを分析するところから始まるのではないでしょうか。
従来型の人事評価制度であっても、自社の事情を踏まえて手直しすれば十分に機能するかもしれません。
自社の現行制度を再検討しグローバル化を図る
海外進出やグローバル化を目指す日本企業も、海外の人事評価制度の趨勢を無視できるものではありません。より透明性が高く公平な人事評価制度を目指して、海外の事例を参考にする必要があるでしょう。
しかし最新事例をただ真似れば成功できるものではなく、あくまで自社に適合した制度とすることが最も重要です。まずは自社を分析し、現在の人事評価制度にどんな課題があるのか検討することが重要です。
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