2019.9.12
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人事評価

HR領域の最新戦略「バランス・スコアカード」とは?

(写真=Stephan Marquardt/Shutterstock.com)
(写真=Stephan Marquardt/Shutterstock.com)
海外の企業で定着しているバランス・スコアカード(以下BSC)を、目標管理・業績評価に活用する日本の企業が増えてきました。BSCは、経営戦略だけではなく人材育成強化から配置の適正化、従業員のモチベーションの向上まで、HR分野における幅広い目標管理・評価に応用することが可能です。

4つの視点から戦略を立てるBSCはバランスのとれた目標管理ツール

BSCは、ハーバード・ビジネススクールのロバート・キャプラン教授と経営コンサルタントのデヴィッド・ノートン氏が1992年に発案した、戦略的業績測定モデルです。結果を重視する従来の業績評価法は、短期的かつ集中的な目標管理サイクルを生みだす傾向が見られますが、BSCは結果だけではなく、そこにいたるプロセスを重視するのが特徴です。

「学習と成長」「ビジネスプロセス」「顧客」「財政」の4つの視点からそれぞれの戦略を立てることで、長期的でバランスのとれた目標管理を行うツールとして効果を発揮するのです。

BSCがHR分野への採用に向いている理由

経営上の目標管理・業績評価とHRには、いくつかの共通点が存在します。例えば、先に述べた「4つの視点から戦略を立て、目標を展開する」という手法はHRにも該当するほか、両者ともに「目的」「測定」「イニシアチブ」「行動項目」を設けています。ただし、経営上のBSCでは、売上の向上や営業内容の強化など「財務」の視点が最優先される傾向にあるといえるでしょう。

一方、HRにおいてはミッションやビジョンを実現するための「学習と成長」を最優先する必要があります。また、人材の採用・育成・維持、組織文化の構築など、HR領域の主要な戦略的分野を中心とする内部的な視点の要素も重視されます。

BSC成功のカギはビジョンとミッションの明確化にある

BSCをHR分野に採用するに辺り、チームのビジョンやミッションの明確化が重要なカギをにぎっています。例えば、「最高レベルのスキルを備えた従業員を育成・確保し、各部門と全従業員間のコラボレーションの文化をサポートする」というミッションを遂行するためには、どのような戦略が必要なのでしょうか。

この課題を遂行するために、HRの要素を配慮した4つの視点から戦略を立て、実現に向けた成功要因を特定し、実際の行動に移行させることが重要です。

1.人材の「学習と成長」に焦点を当てる

バランス・スコアカードをHR領域で活用した際、最重要ポイントは「学習と成長」です。「組織の改善」という枠組みにとらわれず、「HRチームを含む従業員の学習と成長」 に焦点を絞ることで、目標管理が容易になります。目標を達成するために、効果的な学習・教育プランやスキル向上プログラムの必要性を特定します。人材の「学習と成長」の成果は、将来的に組織全体に大きな恩恵をもたらすでしょう。

2.優秀な人材なしでは財務上の成功はあり得ない

「財務」において、株主など利益関係者への還元を最優先事項の一つとすることが必要です。しかし、献身的でモチベーションの高い人材なしでは、経済上の成功を達成することはできません。そのため、正確な財務データの収集は、組織全体の戦略を立てるうえで、HR部門にとっても非常に重要です。ただし、財務データは過去の出来事を数値化したものであり、必ずしも現在進行中の出来事を示しているのではない点に注意しなければなりません。

3.顧客の満足度を向上させる

HRスコアカードの指標となるのは、従業員の顧客への対応です。顧客は、親しみやすくコミュニケーションの行き届いたビジネス環境を重視しており、従業員の対応やサービスへの満足度が、売上高に大きな影響を与える可能性があります。そのため、従業員のポジティブ性や積極性の維持は、経済的成功を評価するために不可欠な要素です。

4.目標に対するパフォーマンスを測定するビジネスプロセス

ビジネスプロセスにおいて、「内部業務がどの程度効果的に行われているのか」「収益を維持するために、組織はどの点で優越すべきか」という2点に注視します。また、すでに確立された目標に対する従業員のパフォーマンス(例:製品、サービスの品質、顧客からの問い合わせへの回答にかかる時間、在庫管理)を測定することも重要です。

具体的な採用例をご紹介

BSCは広範囲な応用が可能です。具体的な管理指標として、以下のような採用例が挙げられます。

人材育成の強化

自社の育成課題を明確化し、育成に対する投資と成果を測定します。例えば、事業戦略や課題をクリアするために必要なノウハウ、スキル、資格取得者、リーダーシップ、コミュニケーション能力、アイデアなどを保有する人材数、研修時間、教育研修・個別育成プログラムによるROI(投資収益率)などを測定することができます。

人材配置の適正化

必須スキルと保有スキルの適正、目標達成率・未達成率、従業員の配置に関する満足度、正社員・非正社員の比率、残業時間・有給休暇消化率などから、必要とされる人材が不足あるいはミスマッチしていないかを測定します。

従業員のモチベーション向上

従業員のモチベーションを測定することで、生産力を強化すると同時に、人材の流出防止に役立てることができます。従業員の仕事に対する満足度、部門・個別の目標意識と達成率、新規企画および業務改善案件数と実行件数、優秀な人材の定着率・離職率・平均在職期間などが項目としてあげられるでしょう。

報酬・給与制度の適正

業務内容の重要度・難易度・責任度と報酬・給与水準の対比、給与・賞与の支給額格差、報酬・給与に対する従業員の満足度など、組織内部に適正な報酬・給与制度が構築されているかを測定します。

重要なのは、スコアカードという制度に重点を置き過ぎず、自社の課題や職場環境、組織文化などを考慮し、目標に見合った最も効果的な指標を見つけだすことです。また、市場やビジネス環境の変化に合わせ、定期的に指標を見直すことで、さらなる向上を期待できるでしょう。
 

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