ゼネラル・エレクトリック(GE)は2016年、最強の人事評価ツールといわれた「9ブロック」を廃止し、新たに「PD(パフォーマンス・デベロップメント)」を採用しました。パフォーマンスを「管理する」から「開発する」戦略に転換した背景には、企業文化の変革とそれに適応する評価ツールへの需要があります。
GEによる「9ブロック」廃止の背景
「9(ナイン)ブロック」は、GEが全従業員のパフォーマンス向上と次世代リーダーの育成を目指す意図で開発した人事制度「セッションC 」で活用されていた人事評価システムです。
パフォーマンスを縦軸、グロースバリュー(価値観)を横軸に設定し、それぞれ3段階に分けた9つの評価ブロックで従業員を評価していくという簡潔かつ効果的なシステムに世界中の企業がインスピレーションを受け、人事評価手段として採用しました。
しかし2016年、GEは大規模な事業構造改革を理由に9ブロックを廃止します。9ブロックの基盤は、目標達成に向けたプロセスや活動を主体的に管理・評価する「目標管理(MBO)システム」です。しかし16年ぶりのCEO交代や組織縮小化、事業集中化というプロセスを経て、企業文化を変革させる必要性に迫られたGEは、新たな自社のヴィジョンにより最適な人事評価システムへの移行に踏みきります。
同社は2012年以降、IoT(モノのインターネット)を産業規模で普及・拡大させる「インダストリアル・インターネット」を新たな自社のヴィジョンとして掲げており、「ファストワークス」と呼ばれるアジャイル型フレームワークを採用しています。スタートアップのように敏捷かつ柔軟に動くことが求められる「ファストワークス」では、環境や需要の変化とともに初期に設定した目標にズレが生じることも多々あります。そのため9ブロックのような人事評価システムでは、対応が困難になりました。
「PD」でリアルタイムに成果や弱点を評価
GEが9ブロックに代わる人事評価システムとして採用したのが、「PD(パフォーマンス・デベロップメント)」です。
9ブロックが「過去」のパフォーマンスに基づく評価システムであったのに対し、PDは「未来」のパフォーマンスを促進するという点が、最大の相違点 です。
GEは人事評価の本来の目的は「従業員の能力開発にある」という結論に至り、ファーストステップとして既存のレイティング(年次評価)やカーブ(正規分布)を廃止しました。「プライオリティー(優先事項)」「タッチポイント(1対1の面談の場)」「インサイト(洞察)」「キャリア対話」「コーチング」をコア要素に評価基準を改め、リアルタイムに成果や弱点を評価することで、従業員が自ら成長しようとする力を後押しするというものです。
従業員はアプリを通してほぼリアルタイムでフィードバックを得たり、上司や同僚などと直接コミュニケーションを図ることが可能なため、自身の現在あるいは次なる目標だけではなく、立ち位置や成長度、改善点などをタイムリーにチェックできます。
人事評価システムの改革期?MBOのメリットを最大化
GEが新たな人事評価システムを採用したからといって、従来のMBOシステムがすべての企業にとって無益になったわけではありません。最適な環境でメリットを最大化することで、従業員が自らの目標に向かって成長できる重要なツールである事実に変わりはありません。
MBOのサイクルは目標設定→実行→評価→改善・見直しという4段階に分かれているため、各従業員の成長過程が把握しやすく、目標を共有することで組織全体の連帯感が生まれるといったメリットが期待できます。また個人の目標を明確にし、クリアすべき課題に取り組むことで従業員のモチベーション向上に役立つほか、組織全体のパフォーマンスに貢献します。
一方、短期的な成果を重視し、長期的な展望やプロセスを軽視する傾向がMBOのデメリットとして挙げられますが、企業側の取り組み方や従業員の意識を改善することで、メリットに転じることが可能です。
例えば「プロセスを成果や目標の一部として組み込む」「中期的評価を行い、プロセスそのものを見直す」「人材育成を促す目的で役割に応じた指導目標を設定する」など、目先の結果に過度に着目することなく、主体的な管理環境を整えることが重要です。
9ブロックの基盤である目標管理(MBO)システムは、現在、そして今後も効率的な人事評価ツールとして、さまざまな場面で活用されていくでしょう。同時に、自社のビジネスモデルや目標に合わせ、PDを採用する企業も増えるものと予想されます。
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