「世界で最もビジネスのしやすい国」の一つとして、世界中の企業が進出を狙うシンガポール。5~10年先の経済ビジョン示す「新成長戦略」や、グローバルな人材が流入するビジネス環境とともに、シンガポール進出を目指す日本企業の課題について考察してみましょう。
シンガポール政府が示す「新成長戦略」
シンガポールは1965年にマレーシアから独立後、目覚ましい経済成長を続けてきました。近年は高齢化社会の加速に伴い、経済中心の国家戦略から国民や福祉を重視するアプローチを試みています。
同国はかつて経済高度化の手段として、高度人材を含む外国人労働者を積極的に受け入れていました。しかし、2010年以降は労働生産性を年率2~3%向上させる意図で、外国人労働者の受け入れを抑制する一方、国内における高度人材の育成に力を入れています。
2017年には未来経済委員会(CFE)が、「次世代パイオニア」としての地位の確立を目指す「新成長戦略」を発表。各産業の労働生産性を向上させ 、国家規模のイノベーションを促進することで、年2~3%のGDP(国内総生産)成長率達成を目標に定めました。
最新ICT技術を活用し、より快適な生活環境を構築する「スマートネーション」に加え、国民の継続的なスキル習得を支援する「スキルズフューチャー」、企業のイノベーション振興と事業拡大の促進など、人材国家としてのさらなる成長を強化するビジョンが、戦略の一部に含まれています。
シンガポールにおける優れたビジネス環境とは
シンガポールの国際ビジネスハブとしての成長力は、こうした国家をあげての力強い支援体制や卓越したグローバルなビジネス環境に起因するものです。政治・社会情勢の安定、資金調達や情報収集、物流を含む産業や生活面でのインフラ確立、法人税制の充実、アジア市場へのゲートウェイ的立地条件など、外資系企業や優秀な人材を誘致する要素は数え切れません。
教育水準が高く、優れた人材を雇用・育成しやすい点も、大きな魅力でしょう。前述した通り、近年は国内の人材育成に焦点を当てているものの、世界中から優秀な人材が流入するというメカニズムは確立しています。国内外の両方から高度人材を確保できる環境作りは、シンガポールのグローバルなビジネス力を、さらに強化するでしょう。
多くの日本企業がシンガポールでビジネスを展開
日本企業も続々とシンガポール市場に参入しています。帝国データバンクの調査によると、2016年4月の時点で2,821社 の日本企業がシンガポール進出を果たしました。
日本企業による地域統括拠点の設置は、川崎重工業やヤマトホールディングスなどが進出した2014年にピークを迎えたものの、その後も東京ガスや資生堂、パナソニック、江崎グリコといった大手企業がシンガポールに拠点を設置しています。
また、アジア市場をターゲットとする製品やサービスのR&D施設やイノベーションセンターをシンガポールに設置する動きが、楽天、富士ゼロックス、中外製薬など日系を含む外資系企業間で加速しています。
競争の激化や和食に対する飽和感が指摘されているものの、飲食業は吉野家やモスバーガー、牛角、和民など大手チェーンを筆頭に、近年はドトール、ドン・キホーテなどが続々と市場に参入しています。コンサルティングから人材会社、会計会社、法律事務所、広告会社、調査会社まで、これらの日系企業の進出をサポートするビジネスサービスも拡大しています。
シンガポール進出を目指す日本企業の課題と成功のポイント
日系企業がシンガポール進出を成功させる上で、重要な課題について考えてみましょう。
2018年度の「アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」で、在シンガポール日系企業が抱える最大の課題は「人件費の高騰」であることが明らかになりました。回答企業403社のうち、70.7%が人件費がコストを押し上げて収益を圧迫している原因と見なしています。「土地・事務所スペースの不足、地価・賃料の上昇(42.5%)」も、その一因です。また、シンガポールでは終身雇用という概念が薄く、向上心旺盛な人材は常にステージアップの機会を狙っています。企業が優秀な人材を維持するためには、「従業員の離職率の高さ(27.2%)」の解決に向け、積極的に取り組む必要があります。
年功序列型の人事評価制度の代わりに、業績に応じた報酬制度を導入するという戦略は、人件費を抑えつつ競争力を確保・維持する手段として非常に有効でしょう。現地の従業員と日本人駐在員の差別化を緩和すると同時に、従業員のモチベーションアップにもつながります。
その一方で、政府が目指す「次世代のパイオニアの育成」を社内に取り入れ、高い向上心と目標をもってステップアップできる人材の開発環境を整備することも重要です。これらの課題をクリアし、真の意味での「現地化」を実現できるかどうかが、シンガポール進出の成功の行方を決定づけるのかもしれません。
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