MicrosoftやGoogleなども人材採用および育成に活用している「ピープル・アナリティクス(People analytics)」は、テクノロジーを活用し、社員や組織に関するデータを科学的かつ効率的に収集・分析するための人材戦略ツールです。
近年、多数の企業や組織が採用や育成のプロセスに導入し、潜在的な能力資源の発見や成長を促進に役立てています。
「ピープル・アナリティクス」とは?
「優秀な人材あるいは成長する人材を経験や直感で見極める」という手法は科学的根拠に欠けており、必ずしも精密な意思決定とはいえません。応募者の学歴や職歴、面接の際の雰囲気や受け答えの仕方を元に、多少なりとも面接官の主観が入る傾向があります。
事実に基づいた総合的なデータを科学的に分析することで、「優秀な人材を雇用したはずが、期待したほど活躍していない」「伸びると思った新人がいつまでたっても成長しない」といったアプローチミスを最低限に抑え、優れた人材を発見・開発し、従業員の業績と定着率を高める--これが「ピープル・アナリティクス」のコンセプトです。
「タレント・アナリティクス」や「HRアナリティクス」と呼ばれることもあります。
「ピープル・アナリティクス」活用のメリット
「ピープル・アナリティクス」の導入により、以下のようなメリットが期待できます。
- 効果的な人材採用
- 潜在的な才能の特定および開発・成長促進
- 最適な人事配置
- 従業員の定着率アップ
- 解決すべき問題の特定
「ピープル・アナリティクス」では、レポート作成や測定基準、予測分析、実験的研究などを用いて分析を行います。これにより面接の際に「入社後に伸びる人材」見極めやすくなるだけではなく、従業員や組織が成長する上で解決すべき問題や新たな洞察の発見、人事活動に関する決定・指示が出しやすくなります。
マッキンゼー・アンド・カンパニーが「ピープル・アナリティクス」の採用企業を対象に実施した調査からは、募集の効率化が80%、ビジネス生産性が25%向上したのに対し、離職率は50%減ったことが明らかになっています。
Googleが採用する「ピープル・アナリティクス」
Googleは才能開発戦略の一環として、「ピープル・アナリティクス」を採用しています。「優秀な人材が流出した原因は?」「新たなイニシアティブのリーダーとしての適任者は?」といったHR関連の重要課題に、事実と科学を取り入れた分析的アプローチを取り入れることで、より効果的で公正な解決策と決定につなげているのです。
同社は専門のHR分析チームを設立し、以下の4ステップに基づいて、「有効性・効率性・経験」を観察・分析しています。
1.給与制度の公平性チェック
2.アンケートによる従業員の満足度チェック
3.測定基準の特定・定義
4.アナリクス・マインドセットの採用
最初のステップとして「報酬理念」を設定し、すべての従業員に能力に見合った公平な給与が支払われているかをチェック。次に年次アンケートやフィードバックなどを通じ、従業員の満足度を把握し、組織に関するデータを収集します。
同社の専門チームは数年を費やしてこのデータを分析し、自社の測定基準を特定・定義したほか、現在は分析トレーニングプログラムも設けています。
しかしGoogle はデータに決定的な回答を求めるのではなく、「あくまで組織に対していだいている疑問について考え、その答えを見つけだすために必要なデータ」として活用しています。「ピープル・アナリティクス」は、組織にとって最も重要な問題や疑問を特定・対処する方法を探るためのツールと捉えているためです。
同じ手法がすべての企業や組織に最適というわけではありませんが、自社の成長に貢献する潜在的な能力資源を早期に発見し、その恩恵を期待できるという点は共通するでしょう。
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