「世界で最も起業しやすい国」に選ばれたことで、「ニュージーランドでの起業や会社設立は簡単」というイメージが先行しているかもしれません。しかし、実際にはさまざまな手続きや準備が必要です。
ニュージーランドが「最も起業しやすい国」である理由
過去数十年間で、「英国市場に依存していた農業経済」から、「工業化された自由市場経済を世界的にリードする存在」へと、急成長を遂げたニュージーランド。2012年以降は、2~4%の年間成長率を維持しています。急成長を後押ししているのは、自由貿易協定や競争促進規制、効率的な税法、オープンな政治体制など、国際的な視野から経済の活性化を促す柔軟性あふれるアプローチです。
「オンラインを利用してほんの数分で起業手続きが完了する」「1株の発行から会社が設立できる」など、起業環境の整備にも積極的です。世界銀行による2018年の「世界で最も起業しやすい国ランキング」で首位に輝いた理由は、こうした背景に起因しています。
ニュージーランドに進出している日本企業
外務省領事局政策課の調査 によると、2017年10月の時点でニュージーランドに進出している日系企業数は226社。そのうち220社は現地法人企業です。製造業、小売・卸売業、宿泊・飲食・サービス業が高い割合を占めており、大手ではトヨタ、富士通、丸紅、富士ゼロックス、三菱商事、住友商事、JTB、ダイソー、リコー、東京フードなどが、ニュージーランドへの進出を果たしています。
起業手続きの流れを解説―オンラインで登記手続きができる
日本貿易振興機構(JERRO)の情報によると、ニュージーランドで起業するに辺り、個人事業主、企業、パートナーシップ(2名以上)、ジョイントベンチャー(2社以上)などのオプションから事業形態を選びます。個人事業主は、会社登録が不要です。しかし、企業として設立する場合は登録や取締役および株主の詳細を登記局に提出する必要があります。
会社登記局への申請は、事業活動開始から10日以内に行う義務がありますが、オンラインで申請できるという手軽さ。申請料は、2019年6月の時点で105NZドル(税抜き)です。必要書類や確認情報は事業形態によって異なりますが、会社を設立する場合は、発行株式数と株主ごとの株式保有数の証明や取締役および株主の承認など、支店登録には貸借対照表を含む親会社の書類の提出を求められます。
投資額や事業設立のロケーションにより、外国投資局の認可などが必要なケースもあるため、信用の置ける専門家に相談すると安心でしょう。
外国企業が会社を設立する手段と注意点
外国企業がニュージーランドで会社を設立するためには、さまざまな手段があります。
- 現地で新たな子会社を設立する
- 現地の企業を買収し、現地子会社を設立する
- 株式の100%を保有するという条件下で、子会社を設立する
- ジョイントベンチャーを設立する
- パートナーシップを結ぶ
- 株式をニュージーランドに移転し、ニュージーランドの企業として登録する
- 支店を設置し、ニュージーランド国内での拠点とする
「現地子会社」は、ニュージーランド国外の親会社から完全に独立していることが条件で、ニュージーランド国籍を保有する取締役が1名以上必要になります。「支店」の場合は、ニュージーランド国外の親会社に権利義務などが帰属し、取締役は親会社と同一人物を登録しますが、権限者としてニュージーランド国内の居住者が1名以上必要です。
就労可能なビザの種類
登録後は、ニュージーランドの会社法の規定に従い事業活動を行う義務があります。その中には、事業を行う資格=日本の個人起業家や企業にとっては、ビザの取得も含まれます。家族の申請が含まれているもの、いないものがあるため、事前に確認が必要です。
1.起業家就労ビザ(Entrepreneur Work Visa)
最低10万NZドルの資本金を準備し、ポイント制度で120ポイント以上獲得すると、1年間のビザを取得できます。スタートアップ期間後、事業の確立に成功したことを証明することで、2年間の延長が可能になります。科学またはICT関連の企業・会社設立に関しては、高度なイノベーションにつながると証明できる場合、資本金が免除されます。
2.起業家居住ビザ(Entrepreneur Resident Visa)
起業家居住ビザの申請条件は、2通りあります。一つは、起業家就労ビザ取得後、ニュージーランドの経済に貢献する革新的な事業を確立することで、2年後に起業家居住ビザへ切り替える方法。もう一つは、最低50万NZドルを投資し、ニュージーランドの市民または居住者を3人以上フルタイム雇用する方法です。
3.投資家1居住ビザ(Investor 1visas)
「3年間で、ニュージーランドに1,000万NZドルを投資する」と条件で取得できる、就労可能な投資家用の居住ビザです。
4.投資家2居住ビザ(Investor 2 Resident Visa)
最低300万NZドル、自由に利用できる資金または資産を保有している、65歳以下のビジネスマンパーソンに発行される、就労可能な居住ビザです。
5.グローバル・インパクト就労ビザ(Global Impact Work Visa)
投資家や起業家誘致策として設立された、エドマンド・ヒラリー・フェローシップ(EHF)の参加起業家および投資家専用のビザです。最低2年半のEHFへの参加を条件に、3年後、永住権の申請が可能です。
このように、ニュージーランドは「起業しやすい国」です。しかし、日本企業が会社を設立したり、個人で起業したりするためには、進出関連制度に関する情報収集からビザの取得、資本金の準備、各種手続き、居住地の確保まで、念入り調査と計画が必要となります。
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