フォーチュン誌の「働きたい米企業ランキング」で、1位に選ばれたヒルトン・ホテルズ。「世界で最もサービス精神の高い企業になること」をミッションに掲げるヒルトンは、「素晴らしい従業員こそが、素晴らしい職場環境を築く」という信念の元、従業員中心型アプローチをCEOが自ら率先しています。「多様性と包括性」をキーワードとするさまざまな取り組みは、どのように成果として反映されているのでしょうか。
世界最大のホテル帝国、ヒルトンとは?
5つ星ホテルとして世界中の旅行客から親しまれているヒルトン・ホテルは、世界最大のホテル経営企業ヒルトン・ワールドワイド・ホールディングス傘下の国際主力ブランドです。ヒルトンは、ウォルドーフ・アストリア、コンラッド、ダブルツリー、ヒルトン・ガーデンイン、キュリオなど、世界113ヵ国・地域に全17ブランド、5,700を超えるホテル(フランチャイズやリースを含む)およびリゾートを有する、世界で最も成長速度の速いホテル企業の一つです。
ヒルトンが考える「多様性と包括性」
多様性は、ヒルトンのミッションやビジョン、バリュー(価値)に共通するテーマです。国籍や人種、文化、視点の違いにとらわれず、多様な人々や価値観を受け入れる包括性は、グローバルブランドとしての継続的な成長を維持するうえで、欠かせない要素の一つ。同社は、最高のホスピタリティと共に、世界中の人々が出会い、お互いに歩みよる場所を提供することで真のグローバルブランドを体現しようとしています。
ホテルを利用するゲストだけではなく、従業員を含む組織全体、そして事業の運営をサポートするサプライヤーやパートナーなど、「あらゆる立場にある人々の視点から物事をとらえる」という姿勢は、多様性や包括性を促進するための戦略の一環です。多様性と包括性は革新力を生みだし、市場における競争力を強化します。
グレイトプレイス・トゥ・ワーク研究所の調査から成功例を挙げると、清掃スタッフやキッチンスタッフなど、通常は仕事に対する満足度が低い労働者間でも、ヒルトンは非常に高い満足度を生みだしていることが明らかになっています。
「従業員中心型アプローチ」への取り組み
しかし、ヒルトンが常に多様性と包括性を重視する企業であったわけではありません。大胆な組織再編に着手し、ヒルトン・ホテルというブランドに新風を吹き込んだのは、2007年同社の代表取締役兼CEOに就任したクリス・ナセッタ氏です。同氏は当時のヒルトンを振り返り、「人々(カスタマー)に奉仕する人々(従業員)を基盤とするビジネスである事実を見失っており、企業環境がフロントラインから大きく切り離されていた」といいます。
ナセッタ氏の改革の中核となったのは、従業員の成功や満足度をあらゆる角度からサポートすることを目標とする、エンプロイー・センタード(employee-centered)=従業員中心型アプローチです。同氏は、自ら従業員の制服の着心地を試し、トップスポーツメーカー、アンダーアーマー(Under Armour) との提携で軽くて機能的な制服を考案しました。
そのほかにも、従業員が使用するバックハウスエリアをゲストエリアと同じくらい華やかで快適なものへとアップグレードするなど、従業員エクスペリエンスの向上に務めたのです。ニューヨーク・ヒルトン・ミッドタウンのバックハウスエリアには、ほとんどの従業員が無料で利用できるカフェや、マッサージチェアが設置されています。
また、後期中等教育を修了していない従業員のために、GED(General Educational Development)取得をサポートする無料プログラムを設け、ワークショップやトレーニングに参加できるヒルトン大学を設立しました。
従業員中心型アプローチ=従業員エクスペリエンスの向上
従業員中心型アプローチは、従業員が自信と尊厳、充実感をもって仕事に打ち込める職場環境を整えることで、従業員エクスペリエンスを高め、「その成果が組織や顧客へのサービスの質に反映される」という真意に根差しています。こうした取り組みは、ナセッタ氏と最上級のリーダーが率いるヒルトン・エクゼクティブ・インクルージョン・カウンシルや、チームメンバー・リソース・グループ(TMRG)のイニシアチブによるものです。
ヒルトン・エクゼクティブ・インクルージョン・カウンシルは、自社の多様性・包括性(D&I)プログラムを監視する目的で発足し、TMRGは多様性マネージメント・プラクティスの土台として、専門能力開発やコミュニティー・エンゲージメント、ビジネス・インパクトに焦点を当てています。
多様性あふれる職場作りのヒントは「従業員中心」の意識
ヒルトンのような国際企業より遥かに規模の小さな企業でも、多様性や包括性を職場にもたらし、従業員中心型のアプローチをとることは可能です。「職場における多様性と包括性の重要さと恩恵」に対する従業員の理解を得ることが、最初のステップでしょう。一人ひとりの個性や背景、異なる価値観や視点に耳を傾け、尊重し、理解に努める姿勢への意識改革を促します。
それと同時に、多様な人々と関わりコミュニケーションを深めることで、「柔軟性やキャパシティーが広がる」といったメリットについても明確にしておくことが必要です。無意識のバイアスが多様性や包括性を妨げている原因であれば、それを取り除くためのカウンセリングやコーチングなどのサポートを提供します。
従業員中心型アプローチは、個々の企業により焦点が異なります。自社に最適なアプローチをとるためには、従業員エクスペリエンスの向上手段について見直すことで、その糸口が見えてくるはずです。
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