賃金格差の解決策として、「賃金構造の透明化(ペイ・トランスペアレンシー)」に取り組む欧米企業が増えています。
格差の現状とともに、賃金構造の透明化の重要性や利点、取り組む上で注意すべきポイントに対する理解を深め、組織に健全なオープン性をもたらしましょう。
賃金格差の現状は?
賃金格差は、長年にわたり議論が行われてきた問題の一つです。近年、その解消策として、賃金構造の透明化が注目されています。
労働者が性別や年齢、雇用形態、産業、企業規模など様々な要因に阻まれることなく、能力を存分に発揮し働きに応じた給与を得ることができる環境作りは、あらゆる企業や組織にとっての優先課題です。
日本においても男女雇用均等法が導入されるなど法的整備の進展にともない、女性の社会進出が活発化しています。厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によると、2017年は女性の賃金が過去最高水準に達し、男女間賃金格差は過去最小に縮小しました。また、年齢による賃金格差の縮小、短時間労働者の1時間あたりの賃金増加も報告されています。
しかし、一般労働者の男性の賃金が335,500 円であるのに対し、女性は246,100円と、依然として格差は存在します。
米大手CEOの報酬は従業員の287倍
特に欧米では、トップと従業員の報酬格差が問題視されています。米国は2018年、賃金構造の透明化向上に向けた取り組みの一環として、米国証券取引委員会(SEC)への申告を通し、CEOから従業員まですべてのポジジョンの賃金率を開示することを全公開企業に義務付けました。
この開示情報に基づき、アメリカ労働総同盟・産業別組合会議(AFL-CIO)が実施した2018年の調査から、S&P 500企業のCEO(最高経営責任者)の2018年の平均報酬が、従業員の給与中央値の287倍であったことが明らかになりました。
米国のCEOは前年比50万ドル(約5,306万円)増の平均1,450万ドル(約15億3,877万円)の報酬を得たのに対し、一般従業員が得た給与はわずか1,000ドル(約10万円)増の平均39,888ドル(約423万円)でした。
従業員同士が給与について、気軽に話合える環境作り
トップと従業員ほどの格差はないにせよ、「自分の給与について、同僚と話をしない」という暗黙のルールがある職場も少なくありません。よくあるケースでは、まったく同じ仕事をしている同僚の給与が、自分の給与より多いことが明らかになった場合、給与の値上げを交渉したり、転職を検討する従業員が現れたりします。そのため、「こうした賃金構造の不透明性は、組織内のバイアスを隠蔽するという意味で、従業員よりも組織に利益をもたらす」との指摘もあります。
従業員が他の従業員と、自分の賃金について何の影響もなく話し合える環境作りも、賃金構造の透明化を高める上で、重要な取り組みの一つです。
賃金構造の透明化がもたらす3大メリット
- 従業員の意欲や生産性、忠誠心の向上
報酬・給与・賃金に関する情報を公開することで既存のバイアスを排除し、従業員に公平な賃金を支払う構造が生まれます。その結果、従業員の労働意欲や生産性、忠誠心の向上、同僚との共同作業の円滑化など、プラス効果が期待できます。
- 給与の基準に対する理解を深める
給与体系(年功序列や経験を含む)やインセンティブ制度に関する基準の明確化は、一部の従業員の給与が他の従業員より高い理由について、従業員の理解と受け入れを促進する役割を果たします。
- 役員報酬の妥当性を管理する
公平な役員報酬は、組織に対する従業員の信頼感や満足感を高めます。
透明化に向けた取り組みのカギ
賃金構造の透明化は、適切な取り組みを行うことで、初めてその効果を発揮します。
例えば、従業員が自分自身をトップ・パフォーマーと認識しているにも関わらず、実際には賃金水準のトップにいないと知った場合、失望感や焦燥感を引き起こし、労働意欲を奪う危険性があります。
こうした事態を回避するためには、OMP(パフォーマンスの客観的尺度)などを活用し、「客観的な基準」に基づいて給与を設定する必要があります。
OMPとは、目標や製品、サービス、プログラムなどの量、速度、効率などの基準を定量化したもので、主観的基準よりもはるかに公平で信頼性が高いとされています。勤勉さや努力などに基づく主観的基準が、様々なバイアスの影響を受ける可能性があるのに対し、測定可能な基準は、潜在的バイアスや人間の判断ミスの影響を受けにくいためです。
例えば、テレマーケティング・エージェントのパフォーマンス基準が販売量である場合、これをドルや円で測定します。基準に達していない場合、早急に対処する必要があると判断できます。
ソーシャルメディア・ツール企業バッファーの成功例
米国のソーシャルメディア・ツール企業バッファー(Buffer)は、透明性へのコミットメントの一環として、賃金構造の透明化を実践しています。共同創業者兼CEOのジョエル・ガスコイ氏が自ら、一般に公開されているスプレッドシートに、組織全体の給与を入力するという積極さです。
また、従業員の給与計算の方法も明らかにしています。各従業員は45日間のブートキャンプ後、「職種×年功×経験+場所=(給与選択の場合は+ 10,000ドル)」という、計算法に基づき、「給与の資格」を取得します。
こうしたオープン性は、従業員のフラストレーションを軽減し、賃金構造への理解を深める学習の機会となります。
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