世界トップクラスのスポーツメーカーNIKEが、持続可能なグローバル企業としての地位を維持する上で、消費者に強くアピールする高品質な製品は欠かせません。それらの製品を市場に送り出しているのは、原材料メーカーや製造機械メーカーなどのサプライヤーです。
NIKEは「労働力が成長と持続可能性のカギ」という信念のもと、HRシステムの開発から従業員エンゲージメントの強化、報酬構造の研究まで、サプライヤーのHR環境を万全の体制でサポートすることで、市場における優位性を保っています。
NIKEの成長を支える「コード・リーダーシップ戦略」
「製品の完成度はサプライヤーで決まる」と言っても過言ではないでしょう。サプライヤーの労働環境が整っていないと、従業員の不満やずさんなマネージメント体制が製品にネガティブに反映される可能性があります。
NIKEは、「強力なHR方針は、エンゲージメントの高い労働力を築くために不可欠である」というスローガンを掲げています。最も特徴的なアプローチは、「コード・リーダーシップ基準(Code Leadership Standards)」という規約設け、これを遵守するサプライヤーとだけ取引を行うというものです。
NIKEのサプライヤーは、「労働者の福祉と、責任ある効率的な資源の使用」というNIKEのサステナビリティ基本理念に共感し、コンプライアンスやサステナビリティにおけるリーダーシップの発揮に熱心であることが求められます。
NIKEはHRシステムへの投資を促進
すべてのサプライヤーがコード・リーダーシップ基準を遵守するためには、サプライヤー側の人材のコミットメントがポイントになります。HR方針と優れたマネージメントは、従業員が一丸となって目標に立ち向かう環境を作る上で必要不可欠です。
NIKEは、自社のサプライヤーがスキルと理解力を備えた人材を確保する手段として、HR分野の専門家やシステム、プロセスに惜しみなく投資することを推奨しています。
また、コード・リーダーシップ基準や行動基準を満たす能力を測る目的で、サプライヤーの工場の定期的な監査を実施しています。
NIKEの効果的なマネージメント・フレームワークの開発
NIKEは、人材マネージメント(HRM)のガイダンスとともに、強化に向けた実践的なサポートも提供しています。HRMの効率化を図るシステムやプログラムを開発し、その効果を測定する専門チームを各地域に配置しているのも、サポートの一環です。こうした取り組みは、サプライヤーが独自にマネージメント・フレームワークを開発する上で、強力なサポートとなります。
1. データ収集・分析システムの開発
正確なデータを収集し、HRM関連の定性的・定量的測定基準に関するデータ分析を実施するためのシステム・プロセスの開発をサポートする。
2. マネージメントの強み・弱みの特定と向上
サプライヤーのマネージメントの強みと弱みを特定し、向上の機会を提供する。
3. HRMシステムの強化
HRMシステムの強化に向けた、コーチングとコンサルテティングを提供する。
4. 従業員エンゲージメントの強化
従業員のエンゲージメントを測定し、教育・投資すべき分野を特定するためのツールを開発する。
NIKEの責任あるエンプロイメント・プラクティス(雇用慣行)
NIKEは工場から生まれた「価値」を高め、その価値を従業員と共有する方法を模索しています。
「コンペンセーション・アンド・ベネフィッツ・リサーチ(報酬と福利厚生の研究)」も、そうした取り組みの一つです。2018年12月には、報酬構造の変更と工場の生産性レベル、従業員の給与の増加に焦点を当てた、実地実験の結果を発表しています。
この実験は、カリフォルニア大学バークレー校の情報・環境学者であるダラ・オルーク教授と、アパレル業界の環境問題の改善などについて研究しているニクラス・ロロ氏の協力のもと、アパレル工場における補償システムの影響を2年にわたって分析したものです。
実験では、サプライヤーの工場員の給与計算根拠をわかりやすくするほか、生産性の目標を達成するためのインセンティブ・システムなど、報酬に対して異なるアプローチが試されました。
その結果、報酬の改善が工場員の家計の助けになるだけではなく、生産性向上に貢献することが明らかになりました。
この実験が、賃金に関する問題の解決策というわけでありませんが、「すべての利害関係者に利益をもたらす報酬システム」を築く上で、確実な前進となったことは疑う余地がありません。
NIKEの従業員エンゲージメントの強化方法
従業員の職場や仕事に対するエンゲージメントを高めるためには、従業員が「自社で働く価値」を感じられる環境を整える必要があります。NIKEはこの課題への取り組みとして、工場員のエンゲージメントとウェルビーイング(精神的・肉体的・経済的幸福感)を測定するツールを開発しました。
例えば、「エンゲージメント・アンド・ウェルビーイング調査(EWB)」を実施して、工場員が「すでに十分なサポートを受けている」と感じている分野と、改善が必要な分野を特定し、その強化と改善に役立てています。
また、マネージメントと労働者間のコミュニケーション強化にも焦点を当て、エンゲージメントが向上するよう努めています。
自社の組織だけではなく、サプライヤーにも徹底した持続可能性を求めることで、お互いの成長を目指すというNIKEの人的資本戦略は、企業とサプライヤー間の新たなビジネスモデルとなる可能性を秘めています。
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