日本企業の海外進出が増える中で、世界をまたにかけて活躍できる「グローバル人材」へのニーズが高まっています。しかし、どういった人材像が自社のビジネスに望ましいのか具体的に検討せず、確固とした人材マネジメント戦略を持たないまま海外拠点を設けている企業も少なくありません。
そこで今回は、グローバル人材として必要な能力は何なのか、備えるべき適性はどんなものかを整理し、企業の進むべき人材マネジメント戦略の方向性を考えます。
グローバル人材とは
グローバル人材に求められる適性や能力とは、どのようなものでしょうか。2011年に設置された政府の「グローバル人材育成推進会議」では、グローバル人材の概念を以下の3つの要素に分類しています。
要素Ⅰ:語学力・コミュニケーション能力
要素Ⅱ:主体性・積極性、チャレンジ精神、協調性・柔軟性、責任感・使命感
要素Ⅲ:異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティー
このうち要素Ⅰの語学力・コミュニケーション能力を基軸として、グローバル人材の能力水準の目安を段階別にまとめています。
1,海外旅行会話レベル
2,日常生活会話レベル
3,業務上の文書・会話レベル
4,二者間折衝・交渉レベル
5,多数者間折衝・交渉レベル
グローバル人材育成推進会議では、1~3のレベルを備える人材の裾野は拡大しつつあるとの認識を示したうえで、4と5のレベルの育成が課題であると考えています。そのためにも、10代から30代の若い段階で留学や在外経験を積むことが重要であるとしています。ただし、日本人の英語力が世界的に見ても低水準であり、留学生の減少傾向もあるなど、語学力と在外経験もまた課題であるとの認識もあります。
別のグローバル人材マネジメントの全体像を把握しているミドルマネージャー以上を対象としたアンケート調査でも、日本本社におけるグローバル人材マネジメントの課題として語学教育や語学以外のグローバルビジネススキル教育、次世代リーダーの選抜・育成などが挙げられました。
以上を踏まえると、グローバル人材は語学力やコミュニケーション能力を大前提として備えつつ、海外でのビジネス経験を積んだ優秀な人材であると考えられます。ただし企業によって何を「優秀」と捉えるかに幅がある可能性もあるため、この点を突き詰めることが欠かせないでしょう。先の調査でも、「グローバル共通のタレント(優秀人材)の把握・管理」を課題と捉える企業が半数以上存在しています。
適している人と適していない人の特徴
グローバル人材の特徴を考慮すると、語学力やコミュニケーション能力を備えた優秀な人材が適しており、そうでない人材が適していないという理解になりそうです。しかし、これだけではグローバル人材の適性を理解するのに十分ではありません。
ミドルマネージャー以上を対象とした調査によると、「グローバル人材に必要な特徴」として最も多く選択されたのは「異なる考え方の人と理解し合える」であり、一方「グローバル人材として活躍できなかった人の特徴」として最も多く選択されたのは「異なる考え方の人と理解し合えない」でした。他にも、「多様な人材を活用できない」「語学が苦手である」「異なる価値観との出会いを喜べない」「海外に興味がない」といった意見も多く選ばれています。
このように、グローバル人材としての適性は単なる業務遂行能力の高さだけで見ることはできない、と多くの企業では考えられています。業務遂行能力に関する選択肢も多く選択されていましたが、それ以上に異文化への対応力や興味関心がないとビジネスのスタートラインに立てない、と考えるマネージャー層が多いのです。
最適な人材配置を実現するためには
グローバル人材として必要な能力や適性を踏まえて、海外へ最適な人材配置を行うにはどうすればよいでしょうか。もちろんグローバル人材を目指すにふさわしい人材を日本国内で選び出すことも重要ですが、それ以上に一貫性のある人材マネジメントを社内でどう構築するかがポイントとなってきます。
国土交通省によると、グローバル人材マネジメントとは国境を越えて展開される事業の最適化のために、グローバル統一基準の人事戦略を展開することを指しています。そのうえで、海外拠点のマネジメント概念として「統制」と「現地化」の2つがあると指摘しています。
統制とは、グローバル人材の処遇や海外支社の組織管理を指しています。一方で現地化は拠点のある地域での競争力を向上させるべく、高い報酬水準を用意するなどの策を指しています。統制と現地化の強弱によって、海外拠点の独立性や本社との関わり方などが変わってくると考えられています。人材マネジメント制度についても、この点から「国・地域別制度」「本社を模倣した共通制度」「グローバル共通制度」などが考えられます。
グローバルに活躍する人材を多く輩出したいのであれば、採用や評価など人材マネジメント全体をグローバル化する必要があると考えられます。必ずしも「日本的なやり方」にこだわるのではなく、グローバル統一基準の人事・人材戦略が求められるのです。たとえば、グローバルな報酬体系を基本として、現地の報酬水準を加味して「現地化」するやり方が考えられます。
求める人材像を明確にして戦略を立案する
グローバル人材として求められるスキルセットは、企業の戦略や規模、海外拠点の環境などに応じて異なる可能性があります。まずは今回紹介した定義を参考として、各社で求められる人材像をある程度クリアにする必要があるでしょう。そのうえで、そうした人材を輩出・育成するためにどんな採用戦略や育成方法をとるのか、本社と海外拠点とがともに検討を進めることが望まれます。
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