一日の大半を過ごす職場だからこそ、皆が快適に過ごせる環境作りが重要です。職場の雰囲気や人間関係は、仕事の生産性や業績に大きく影響します。
近年、従業員のモチベーションを上げ長期的な成長を続ける手段として、安全で効率性の良い職場環境「ワークプレース・デザイン(Workplace design)」を取り入れる雇用主が、欧米を中心に増えています。
ワークプレース・デザインで生産性と定着率アップ
「職場=機能性重視」という考えに傾きがちですが、職場環境と従業員の健康、パフォーマンスは密接な関係にあります。環境の良い職場では従業員が生き生きとそれぞれの仕事に打ち込み、それがポジティブな結果に反映されます。また優良な人材の確保・維持にも貢献するでしょう。
一方、職場環境が良くないと、従業員の集中力やモチベーションが低下し、ミスや欠勤、離職率が増え、生産性や業績にネガティブな影響を与える要因となります。
ワークプレース・デザインは、「物理的な好環境を提供することで、従業員の心身の健康を最適なレベルに保つとともに、仕事の生産性を向上させる」というコンセプトから生まれました。
安全で快適、かつ生産的な職場環境を生み出すことを目的とする「人間工学」をベースに、個人の体格、体力、技能、スピード、感覚能力(視覚、聴覚)など、人間の能力と限界を配慮した職場を設計することが目的です。
日本でも「健康経営」という言葉を耳にする機会が増えていますが、従業員の健康管理は企業が持続的に成長する上で、欠かせない要素のひとつです。効果的なワークプレース・デザインを通して従業員に投資することは、企業にとってかけがいのない恩恵をもたらすでしょう。
ワークプレース・デザイン 3つの重要ポイント
デザイン性や機能性のみを重視してオフィスや作業場を改造するだけでは、働き方改革にはつながりにくいでしょう。ワークプレース・デザインを実践するにあたり、配慮すべき重要ポイントは以下の3つです。
1 人間工学に基づいた安全衛生条件の最適化
職場は従業員が日常業務を安全に遂行し、緊急時にも安全手順に沿って効率的に対応できる環境が必須です。日本では2008年以降、労働契約法の第5条で「安全配慮義務」が定められているため、雇用主には従業員の心身の安全を確保する義務があります。
怪我や事故が発生する可能性のある場所には適切な安全装置を設置し、定期的に点検・整備を行う必要があります。日常的に怪我や事故が発生しやすい職場では、危険な機器周辺を安全に移動するための十分なスペースを確保するなど、より安全性を追究した設計が必要です。
その他、従業員への衛生教育や健康診断の実施といった基本的な安全配慮義務に加え、ワークプレース・デザインは人間工学に基づいたオフィス家具や温度制御、照明などを取り入れることで、日常的な作業が行いやすい環境を設計します。
2 メンタルヘルスを向上させる工夫
過度の労働やプレッシャー、人間関係などが原因で、ストレスを過剰に抱える従業員が増えています。ワークプレース・デザインは、従業員のストレス軽減手段としても効果的です。
室内のインテリアを例に挙げると、作業場にはやる気を起こさせる色使いや照明を用い、休憩室にはリラックスできる色使いや照明、植物などを配置することで、従業員はオンとオフの切り替えがしやすくなります。組織心理学者キャリー・クーパー教授がEMEA(欧州・中東・アフリカ)8カ国・地域の労働者3600人を対象に実施した調査によると、自然の要素を持つオフィスは生産性を8%、幸福を13%向上させることができるそうです。
従業員がひとりで悩まないようにと、信頼のおける社内の人間に相談できる機会を設けたり、定期的にストレスチェックや個別面談を行っている企業もあります。
3 機能性とヒューマニティー(人間味)の調和
機能性も生産性に影響をあたえる大きな要因のひとつです。しかし機能性を追究するあまり、無機質で活気を感じられない雰囲気の中では、従業員のモチベーションが上がらず、コミュニケーションの欠落やチームワークの低下を招きかねません。
皆が共有できるオープンスペースやチームスペース、個人の仕事に専念できるプライベートスペース、休み時間に利用できるブレイクアウトスペースなど、活動ベースの作業に機能性とヒューマニティーを融合させることで、人的・物的環境の調和をとりやすくなるでしょう。
例えば新生銀行のプリンシパルインベストメンツは共有スペースを広げ、ガラス張りの仕切りを使ったオフィスに改造し、従業員の任務に対する意識改革とコミュニケーション向上を図っています。
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