職場におけるユーザーエクスペリエンスを向上させ、従来の採用プロセスの強化を狙う「ゲーミフィケーション(gamification)」が、HRテックトレンドとして注目されています。
GoogleやAccenture、Microsoftなど大手企業も積極的に採用しており、HR分野でも大幅な時間の節約につながると期待されています。
2020年までに収益1兆円突破?ゲーミフィケーション市場
ゲーミフィケーションは、ゲームの要素を様々な分野に取り入れることで、エンゲージメントや学習、生産性、効率性、モチベーションなどの向上に役立てるという応用法です。2010年頃からビジネスシーンにおける活用が活発化し、現在は教育からビジネスまで幅広い分野で実用化されています。
M2リサーチの調査によると、2011年にはゲーミフィケーション関連のマーケティング、ソフトウェア、およびコンサルティングによる世界の収益が、ほぼ1億ドル(約145億 9142万円)を記録しました。さらに2020年までには、500%増の110億ドル(約1兆 6050億円)に達する見込みです。
HR分野においては、主に採用試験や人事評価、教育・育成のプロセスをより実践的で効果的、かつ楽しめるものにする目的で活用されています。
適切な人材の採用率・従業員の定着率向上に役立つ
ゲーミフィケーションの効果については賛否両論に分かれるようですが、実際に採用した企業の多くがポジティブな効果を認めています。
適切な人材の採用率や従業員の定着率を向上させるために、2015年に「Multipoly」というオンラインゲームを採用したPWCハンガリーの報告からは、「求人広告への応募者が190%増えた」「従業員の仕事への関心度が78%増した」「新入社員へのイントロダクションがスムーズになった」ことが明らかになっています。
同社が採用したゲーミフィケーションは、従業員や応募者が仮想環境において現実的なビジネス上の課題を解決するというスキル・適性テストで、ゲーム内のパフォーマンスに基づいてフィードバックやスキル開発の提案を提供するというものでした。
また国際コンサルティング企業Deloitte ニュージーランドは、リクルートツールとして「Deloitteに向いているか」という、4分間の双方向リクルーティング・ビデオを活用しています。仮想空間で応募希望者に「Deloitteの新社員」としての役割を与え、2択式のクイズ形式をとりいれながら、企業文化や事業内容について説明します。その結果により、潜在的な応募希望者は「応募をするか、しないか」を判断することができるというわけです。
Google、Cisco Systemsのユニークな活用法
よりユニークなアプローチを採用している企業もあります。
常に人事および採用における新しいアプローチを開拓しているGoogleは、従業員に速やかな出張費の申請を促す手段としてゲーミフィケーションを活用しています。
同社の従業員は出張ごとに手当を受けとります。全額を受けとらない場合、残高を給与小切手に追加するか、あるいは慈善団体に寄付するかを選択できる機能をゲーミフィケーション申告システムに追加したところ、従業員の申告率は100%に達したそうです。
世界最大のコンピュータネットワーク機器開発Cisco Systemsは、セールス部門からHR部門まで多様なゲーミフィケーション・プログラムを戦略の一部 にしています。
例えば「ソーシャルメディア・トレーニング・プログラム」は、優秀な人材や新規顧客を獲得する発掘する目的でHR部門やセールス部門のスタッフに、SNSの効果的な活用法を学習させるというものです。スタッフはゲームを通して学びながら、3つのレベルの「検定」を受けることができます。
効果的な採用の注意点
ゲーミフィケーションによって得られるエンターテイメント要素と「タスクを完了した」という達成感は、従業員が自主的に行動を起こす環境作りに役立ちます。従業員が自らの意思で考え、学び、成果をだすことに積極的な環境の確立は、HR業務の大幅な時間の節約につながるでしょう。
効果的にゲーミフィケーションを採用するにあたり、注意すべき点もあります。
- 従業員が日常的にアクセスしやすく利便性の高いものにする(例:PCだけではなくモバイルデバイスからも利用できる環境)
- 従業員が興味をもちやすいゲーム構造と技術を採用する
- 自社のビジネス戦略と関連性のあるコンテンツを選ぶ
またゲーミフィケーションを通じて収集したすべてのデータやメトリックスを分析し、従業員のモチベーションをさらに向上させる手段を模索するなど最大限に活用することで、組織のさらなる成長が期待できるでしょう。
【オススメ記事】
・
グローバルタレントマネジメントが求められる理由にせまる
・
アジアの現地企業の人材流出を防ぐためにすべき4つの対策
・
日本型「同一労働・同一賃金」のスタンダードな位置づけは?
・
アジアでの法人駐在員がマネジメントで失敗する3つの理由
・
アジアに進出する日本企業が直面する人事における3つの課題とは?