世界35ヵ国以上の都市に就航ネットワークを持つ世界的に評価の高いシンガポール航空。「最新鋭の翼とやさしいおもてなし」という企業理念が物語るように、「最先端の航空機とプレミアムサービスの提供」をビジネスモデルの主軸に据えることで、世界トップクラスの航空会社へと成長を遂げました。その持続的な競争力の源から、グローバル化を目指す日本企業が学べる点を考察してみましょう。
持続的な競争優位を実現する5大資本
シンガポール航空は1947年の設立以来、航空会社として世界最多のアワードを受賞しています。英国の航空サービスリサーチ企業のスカイトラックスが、世界の航空会社におけるサービスを評価する「ザ・ワールド・ファイブ・スター・エアラインズ」で最高ランクの5つ星を獲得したほか、2,000万人以上の旅行者が選ぶ「ベスト・エアライン」では過去18年間で4回も1位に輝きました。
常に成長を実現してきた持続的競争力の源は、同社の堅硬な組織活動体制にあります。これは「厳格なサービス設計と開発」「総合的なイノベーション」「全従業員に根差す利益意識」「戦略的相乗効果の達成」「スタッフの総体的な開発」という5大要素で構成されており、米国の経営学者であるジェイ・バーニー教授などが支持する「資源ベース論(財務資本・物的資本・人的資本・組織資本・アイディオロジカル資本[組織としての思いやビジョン])」との共通点が見られます。
シンガポール航空は最先端の機材や設備、人材への投資、グローバルなネットワークの拡大、組織全体のインテグリティ(誠実さ)の重要さに対する高い意識など、持続的な成長を促す上で欠かせない、幅広い分野へ積極的に投資することで、競争優位を実現する5大資本を確保しています。
同社は「最高のサービスをいかにコスト効率良く提供できるか」という点を成功のカギと見なし、現在は「HRやマーケティング、オペレーションといった機能的戦略を、いかにビジネス戦略と効果的に連携させていくか」という課題に取り組んでいます。
人材を育てるサポート体制が万全
シンガポール航空はグローバルなビジネス展開を目指す企業の例にもれず、人材開発に積極的なアプローチをとっています。人材開発は人的資本となり、やがて組織資本や財務資本、物的資本を生み出します。
人的資本を効率的に拡大する手段として、継続的な職務研修や管理者研修、スキルトレーニングに加え、管理開発センターで企画した必修課目など、優秀な人材を育てるサポート体制を全従業員に提供しています。
また、「価値ある高水準サービスの提供」というビジョンを従業員と共有することで、生産性や効率性の向上を図ると同時に、組織一丸となって理想の企業を作り上げて行く「全員参加型経営」を実現しています。従業員のアイデアを取り上げ、具体化するといったコミットメントの強化は、従業員のモチベーションアップにも絶大な効果を発揮します。
競争の激しい航空産業で他社との差別化を図る手段として、自社の人材を活用している点も特徴的です。厳しいトレーニングを受けた「シンガポール・ガール(乗務員)」や従業員によるプレミアムサービスは、今や同社のブランド的役割を果たしています。
個人の能力を引き出すシンガポール
日本ではいまだに年功序列型人事制度が残っていますが、シンガポール社会は能力型人事主義です。そのため、高い教育を受けた人材は明確なキャリアパスを持って、より高いステージへのステップアップを考えながら働いているのも特徴の一つです。シンガポールでは自分の能力を伸ばして知識や経験を積む機会に恵まれない職場からは、ためらうことなく転職するのが一般的です。
シンガポール航空が実践する「従業員の向上心を刺激し続ける」戦略は、企業成長に貢献する高い向上心を持った人材を開発し、世界トップクラスの競争力を育む、非常に効率的かつ効果的な手段です。競争が激しい航空業界に限らず、グローバルで事業を展開する企業にとっては、従業員の向上心やモチベーションを向上させる仕組み作りが何よりも肝要であるといえるでしょう。
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